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「想定外に備えることなんて、できないだろう」~災害の“想定外”の話②

想定外には限度がないから、
「想定外に備える」ことなんかできないんじゃないか?
イオンモール熊本のガス爆発事故、
あれは不可避な事故だったのだろうか。(写真:消防庁/Wikimedia Commons(CC BY 4.0、トリミング加工))

【イオンモール熊本のガス爆発は事故だったのだろうか】

 7月末の「令和8年熊本地震」ではイオンモール熊本で地震直後にガス爆発があり、7名もの人が亡くなってしまいました。一部のマスコミはこれを「想定外の事故」と表現し、私も、大きな揺れが収まったあと、普通は津波警報でも出ていない限り、誰でも元いた場所に戻って後片付けをしたり、帰り支度をするものだという思いがありましたから、イオンに落ち度があるようには考えていませんでした。世の中には「やむを得ない」とあきらめるしかないことが、いくらでもあるのです。今度のことは不可避の事故とて忘れるしかない――そう思いかけていたのです。

 ところが、イオン本社はかなり早い段階で、
「屋内に戻ることを許可した責任は現場の責任者にではなく、会社にある」
といい出してさっさと責任を認め、謝罪してしまったのです。なぜなのでしょう。

【問われるのはその場ではなく準備】

 実は、これには前例があるのです。宮城県石巻市立大川小学校の損害賠償請求裁判です。
 あのとき争われたのは、地震のあとで校庭に避難したまま、いつまでもその場に留まった学校の判断の是非ではありませんでした。“未曽有の大地震に際しても、学校は十分な避難計画を立てる義務があったのかどうか”という事前の問題が問われたのです。
 仙台高裁はこの件に対して、
「震災前から宮城県などによって想定されていた『宮城県沖地震(M8クラス)』に伴う津波の危険性を前提として、学校側には平時から児童の安全を確保する義務があり、適切な避難計画や避難場所を準備していれば被害を回避できた」
と判断し、被告の石巻市も引き下がったのです。

 これをイオンモール熊本に当てはめると、問われるのは「いったん無事に避難した従業員たちを、建物内に戻した現場スタッフの判断の是非」ではなく、「避難完了後の判断や行動について、イオンモールは十分な計画を立てる義務があったかどうか」ということになります。

 論点が明確で前例がありますから、損害賠償請求が行われた場合、原告の主張は必ずそうなると予想できます。そして大川小学校の例を引くまでもなく、そこまで丁寧なマニュアルを準備する責任がイオンにはあったという判決が、ほぼ出そうな状況があるとイオンは判断したのでしょう。勝ち目がまったくないわけでなないかもしれませんが、企業イメージを計算に入れると、戦わない方がいい――だからイオンは即座に自社の責任を認め、謝罪したのです。賢明な判断だと思います。

【想定外には備えられない】

 「想定外にも備えよ」という言葉は、東日本大震災の際、特に福島第一原発事故について言われ始めたものです。
 福島第一原発は約5.7mの津波を想定して対策を施してきたのですが、実際に来たのは約13m、想定のおよそ2.3倍の津波です。想定外の高さで、だから「想定外に備えよ」となるのですが、実際問題として、「想定外に備える」というのはできる話なのでしょうか?

 例えば恐竜を絶滅させたと信じられている隕石の衝突、その時起こった津波は瞬間的な高さが1600m、その後メキシコ湾内に広がったリング状の津波は、メキシコ湾の大西洋側出口で300m超だったと考えられています。想定外に備えるというのは、福島第一原発でもそうした巨大隕石の衝突といった事態にも備えろということなのでしょうか? 原子力発電所を東京タワー並みの高さの塀で囲い込む――いや300mだって“想定”ですから、“想定外に備える”はそれ以上の高さに備える、ということなのかもしれません。

 高さ1000mの防御壁だったらどうでしょう。日本で平均標高が1000mを超える市は長野県の茅野市だけです(平均標高1083m)。想定外に備えるということになれば茅野市の小中学校でも津波避難の訓練をしなくてはならなくなります。
 不審者侵入対策訓練も、今は侵入者が一人という想定でやっていますが、二人の場合、三人の場合、あるいは外国の軍隊一個中隊による占拠も考えなくてはならなくなります。しかしそんなこと、できるはずがないじゃないですか。
(この稿、次回最終)