「想定外だった」と言えば、
すべてが仕方のないことになる。
しかし本当に想定できなかったのか、
それとも想定しなかっただけなのか。
(写真:フォトAC)
【「想定外」の二つの意味】
考えるに、「想定外」には二つの意味があるのかもしれません。
ひとつは、科学的、常識的、経験的に考えてあり得ないこと、考えても仕方のないこと。もうひとつはあり得るのに「考えの及ばなかったこと」「思いもしなかったこと」です。
前者について言えば「高さ1000mの津波」だの「外国の軍隊一個中隊による学校占拠」などは、常識的にはあり得ないことですし、あったら手の打ちようがありません。
昨日お話しした約300mの津波は、恐竜を滅ぼしたとされる隕石が地球に衝突した際に発生したと推定されるものですが、同じこと千葉県沖あたりで起これば、関東地方の大部分の都市は壊滅します。津波は、東京都の青梅市やあきる野市の山間部、埼玉県秩父市の大滝近くまで迫り、神奈川県なら緑区の一部・藤野・相模湖あたりまで行けばようやく助かるといった状態です。桧原村(東京都)でさえ、役場付近は標高300mだそうですから、一瞬、目の前すべて海になるわけです。
もちろん6600万年ほど前に一度起こったことなのでまたあるかもしれませんが、そんな大津波を想定しても、首都圏の大部分の学校は避難計画も立てられません。逃げようがないのですから。
したがって高さ300mの津波は「想定外」として、何の対応も取らないのです。昔の中国で天が落ちてくるのではないかと本気で恐れた人がいても、友人たちが説得する以外に何の対策も打たなかったのと同じです。
しかしもうひとつの「想定外」は違います。「考えが及ばなかった」「思ってもみなかった」ということですから、場合によっては、そこまで考えたり思ってもらわなくてはならない場合の話です。
【イオンモール熊本のガス爆発は「想定」できなかったのか】
イオンモール熊本のガス爆発を、素人が想定することはやはり難しかったように思います。
家庭用のガスは、都市ガスであろうとプロパンであろうと、大きな地震に際しては自動的に弁が閉じるから危険はないと、教えられているからです。私も何度か自動的に閉じられた弁の開栓操作をしたことがあります*1から、地震の後、改めて使う時には操作が必要なことは知っています。しかし地震が起きた時点でガスも気にしなくてはならないという点には、発想自体がありません。地震直後にガス爆発があったという話も聞きませんから、一般の利用者がそこまで考えなかったとしても、無理はありません。
ただし企業の避難マニュアルとしては、客や従業員を避難させた後をどうするか、きちんと文書に残しておく必要がありました。
津波警報が出ているかどうかを確認して、出ていれば次の対応を考えなくてはいけませんし、建物の中に入れば天井から剥がれた部材が落ちてくる可能性もあります。遅れて火災が発生することは珍しくありませんし、10年前の熊本地震と同じように、さらに強い地震が続けて起こることだって考えられます。そうしたすべてを、現場の判断に任せるわけにはいかないのです。
いまとなると、10年前、立て続けに二度も大きな地震のあった熊本で、避難マニュアルが不十分なまま残ったことはむしろ不思議です。通常の火災や事故なら、消防や警察がすぐにも駆けつけて適切な指示を出してくれる*2が、大規模震災ではそうもいかない、大部分のことは自分たちで判断し、実施しなければならない。そのことは10年前にある程度の痛みを伴って経験済みだったはずです。
大きな地震があって無事に避難を完了して落ち着いたあと、どの時点で建物に戻るか――戻るに際して何に注意し、どう判断すればいいのか。そこに細かな配慮のあるマニュアルをつくっておかなかったことは、やはりイオンの落ち度でしょう。
【想定できることを、きちんと想定する】
必要なことは「想定外に備える」ことではなく、状況をきちんと想定することです。
福島第一原発については2006年に20メートルの津波から施設を守るには防潮壁建設に80億円などと試算していたと言いますし、2008年には福島第一原発で最大15.7メートルに達すると試算した内部資料が残っていたと言います(いずれも2012年6月13日付朝日新聞)。実際の津波に近い規模の津波が発生する可能性は、事故前から社内で認識されていたのです。
「想定はされていた。しかしそれを防護対策に結びつけることができなかった」という話なのです。
昨日、話題にした水に浮かんだり水没した自動車の件も、市町村はハザードマップを出していますからそこに表された浸水域を、「住宅が浸水するかもしれない地域(我が家は浸水域にないから大丈夫だ)」から、「車で移動中にタイヤを取られるかもしれない地域」と想定を広げるだけで、車を守れた人は大勢いたのかもしれません。今のところ、そうした観点でハザードマップを見返す人は少ないと思いますが、今後も繰り返し同じような映像が流されることによって、通勤路の浸水域くらいは確認をする人は増えてくるかもしれません。
東京都北区の学校火災も、音楽準備室からの出火が想定すべき事態かというと微妙です。ストーブを使って洗濯物を乾かす先生がいるかもしれないといった可能性を思い浮かべることはできませんが、漏電火災などを考えるとすべての教室を出火場所として想定することも可能です。どの教室からでも火災が発生する可能性を考えて防火設備が設けられている以上、「学校のどこから出火するか分からない」というところまでは想定されていると言ってよいでしょう。
しかし児童が自主的に危険な側の窓から庇(ひさし)に出ることは想定できなかったでしょう。しかしそもそも4階の窓から外に出ること自体が想定外です。
ただし、「練習したことがないから救助袋は使えない」という事態は想定しておくべきだったはずです。私も練習したことがありません。ですから実際に使わなくてはならない事態を考えると、あんな真っ直ぐに下に向かう布のトンネルに身を任せる気にはなりません。真っ直ぐ落ちて行ったら確実に死ぬじゃないですか。*3
やはり練習して使い方を実感するしかありません。全員が実際に体験する時間はありませんから、せめて一部の子どもでも脱出するのを見せて、実際のときも恐れず利用できるようにしておくことが必要でしょう。
【想定外にしてはいけないのに、想定外になっているもの】
さて、そうなると次は、想定外にしてはいけないのに想定外になっているものはないか、が問題になります。
私の頭の中にはひとつ思い当たる節があります。学校の屋内消火設備の中にある消火ホース、耐用年数は10年ですが大丈夫ですか? ただし10年で必ず交換という法律はなく、10年経過後は耐圧性能点検が義務化(以降3年ごとに継続)という仕組みになっていますが、行っているでしょうか? 実際に火災が起こって使おうとしたら、次々と破裂して使い物にならない――そういった心配はありません? 私は避難訓練で使ってみたら、2年連続で破裂してしまったという経験があります。
市教委に訴えたら、「分かっているけど、予算が――」と言って取り合ってくれません。市教委の事情は分かりますが、私は諦めず、しつこくお願いし続けました。絶対に交換してもらえないことは分かっていましたが、市教委に訴え続けている間は、万が一の時にも「私は事前に伝えていた」と言えます。
諦めて何も言わなくなった後で起こった事故の責任は、こちらということになりかねません。保身すべき時にきちんと保身しておかないと、とんだ目に遭うことがあります。これも想定内の話です。
(この稿、終了)