カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「結婚詐欺師の条件:自信・能弁・普通息子よ、いまだ独身のオマエと結婚の話をしよう③

 今すぐにでも結婚できそうな人たち、
 その最右翼は結婚詐欺師たちだろう。
 彼らには自信家・能弁という共通性があるが、
 それ以外は普通に見えるという特徴もある。
 ――という話。(写真:フォトAC)

三和銀行オンライン詐欺事件】

 40年以上前の話ですが、大阪府茨木市三和銀行(現・三菱UFJ銀行)を舞台に女性行員が1億8000万円を盗んで海外に逃亡するという事件がありました。『三和銀行オンライン詐欺事件』と呼ばれるものです(1981年)。
 女性は開店とほぼ同時に大阪府内及び東京都内の三和銀行4支店からオンラインで架空口座へ資金を移し、10時半ごろ歯痛を理由に早退。府内の二か所で金を下したあと、伊丹空港から東京へ向かって都内でも二か所の支店で金を下ろすと、再び羽田に戻ってそこから台北・香港を経由してフィリピンに逃げたのです。
 たった一日でそれだけの仕事を成し遂げた実行力、コンピュータが庶民のものでなかった時代のオンラインを利用するという前代未聞の犯罪手口、1億8000万円という額の大きさ、さらに容疑者の写真が公表されるとその美貌のために、たいへんな話題となりました。

 ところがしばらくすると「犯罪の陰に男あり」、実は恋人(既婚者)に唆されてやった男性主導の犯罪とわかって、一気につまらない話になってしまったのです。1億8000万円のほとんどは男に吸い取られ、マニラで待てと言われて待っていたのに「恋人」は現れず、あとで聞くとその間も男は家族と豪遊していたらしいのです。

 頭がよく、行動力も度胸もある美人の犯罪が、普通の馬鹿で哀れな女の物語になってしまったので本当に残念でした。残る関心は“こんな美人を唆してあれほど大胆な犯罪を起こさせた「恋人」とはどんな男なのか”、に集中したのですが、逮捕された男は見るからにしょぼくれた中年男で、日本中がさらにガッカリしてしまいました。
 *現在、犯人男性のものとしてネットに流布している好青年風の写真は別人のものです。

【美人にはだれも声をかけない】

 事件は、私が二十代後半になって、そろそろ結婚を心配し始めたころに起きました。恋人もなく女友だちもなく会社に独身女性もいない環境で、この先どうなっていくのだろうと不安になっていた時期に、しょぼくれたおじさんが美人を好きなように扱った事件が報道されたのです。
 しかも話を聞くと自分は暴力団に追われていて、金を出さないと殺されるかもしれないといった架空の話をでっち上げ、デートの最中にも「誰かに追われている」と言い出して、繁華街を逃げ回っていたりしたようなのです。私も能弁で口は軽い方ですが、さすがにそこまでの嘘はつけません。そもそも騙す騙さないの前に、あれほどの美人に声をかけること自体が難しそうです。

 なぜ美人行員はあんなつまらない男を好きになったのか、なぜあんな馬鹿話にやすやすと乗せられたのか――。実は私にはヒントとなる経験があるのです。しかも2件も。

 ひとつはオムツの時から始まって、保育園も小学校も中学校3年間も、ずっと同級生だった幼馴染で、とにかく近すぎて美人であることにも魅力的であることにもまったく気づかないまま大人になった人です。卒業後もそれとなく関係はあったのですが、ある日、結婚を決めたと聞かされた相手が、これも私のよく知るクズみたいな男で、私も彼女に気があったわけではないのに、幼馴染ですから何としても阻止しなくてはといった気持ちになって話を聞きました。すると言われたのが、
「彼、花束をくれたの(だから結婚する・余計なことは言わないで)」
《ああ、この子、誰からも花束ひとつもらったことがないんだ》と初めて気づいたのがそのときです。
 美人過ぎると誰も声をかけてこない、かけてくるのは思慮に欠ける無謀な男か、女性を嘗め切った不良だけ、そんなこともあるのです(もう一件については話が重複するだけなので触れません)。

【太った女性殺人鬼】

 平成に入って『三和銀行オンライン詐欺事件』とは真逆の詐欺・殺人事件が相次ぎました。
 まったく美人とは言えない女性が容疑者だった結婚詐欺事件で、しかも連続殺人事件。その先駆けとなったのが、いわゆる「首都圏連続不審死事件」または「婚活殺人事件」「婚活大量殺人事件」「婚活連続殺人事件」等々と呼ばれる平成前期の大事件(2007年~2009年)です。「木嶋香苗事件」と名前で言った方が思い出しやすいでしょうか。
 首都圏に住む41歳から80歳までの男性9人の不審死に関係し、十数人の結婚詐欺で1億円以上を手に入れたとされる容疑者(現在は死刑囚)は、身長は155cmほどと標準的なのですが、体重は明らかに90㎏を越えていて、顔立ちも「太った人は可愛い」という範囲では可愛いのですが一般的な意味では美人ではありませんでした。

 犯人の姿が初めて映像の形で流されたとき、おそらく日本中が、
「なんでこんな女に十数人もが騙され、数千万円も貢ぎ、しかも殺されたのか」
と思ったに違いありません。しかし彼女には素晴らしいみっつの武器がありました。
 それはまず料理と性に関する圧倒的なテクニック(自称)、口のうまさ、そして容姿です。最後の「容姿」について言えば、太っていることに劣等感はまったくないようで、おそらくその方が有利だと直感的に感じていたのでしょう、ダイエットもせず、化粧もほとんどせず、詐取した金で美容整形をすることも考えなかったみたいです。

【婚活市場では「普通」が優先される】

 私には男たちが騙された理由がよくわかるような気がします。
 これといった話もないまま40歳を過ぎてようやく重い腰を上げて婚活パーティに行ったら、前に座った女性が長澤まさみ綾瀬はるか張りの美人で、キラキラした目でこちらを見ていた――そんな事態が起こったらどうします? 
 当然、怖気づいて逃げ出すはずでしょう? 40年間起こらなかったことが突然起こるとしたら、そこにあるのは奇跡か悪意です。悪意である可能性が非常に高い。だとしたらその場にとどまるべきではありません。

 そもそもあなたはパーティが始まるや否や、ざっと見まわして一流の超美人は最初からふるい落としていたはずです。収入も地位も、間違って「年収2000万円」だの「〇〇会社副社長」だのといった人と話を始めて時間を無駄にしないよう、注意深くリストからはずしたでしょ?「趣味:料理」はいいですが、「クラシック音楽」「歌舞伎鑑賞」もダメです。話が合いません。

 一流・超一流でなければ何でもいいというわけではなく、「年収130万円」だの「無職」だのも最初から外してありますし、容姿にも許容範囲は設けてあります。要するに「普通」がいいのです。
 木嶋香苗には料理・性・言葉という強力な武器がありましたから、「容姿」で多少の減点(「太っていると言っても90kg超はなあ――」)があっても気にならなかったのでしょう。いや、何の浮いた話もなくその齢まできてしまった男たちには、むしろ安心できる要因で、現実の結婚を考えるにふさわしい相手だったのかも知れません。

 婚活市場では総合的に「普通」の女性が好まれ、「普通の女性」から消えていきます。
「高望みはしない。普通の女性でいい」という、その「普通」自体が高望みなのです。
(この稿、続く)