カイト・カフェ

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「恋愛抜きの結婚ならしてみたい」~若者の結婚観が変わる④

 恋愛はもはや「娯楽」のひとつ、
 何が何でもしなくてはならないものではなくなった。
 しかし「結婚」は今も価値を輝かせているようだ。
 だったら恋愛抜きの結婚を広め、
 結婚のよさを伝えて彼らの後押しをしよう。

という話。

f:id:kite-cafe:20200117072020j:plain(「結婚式 フラワーシャワー1」PhotoACより)

 

【恋愛抜きの結婚ならしてみたい】

 昨年末、12月26日のNHK「所さん!大変ですよ『愛より結婚スペシャル』」には、これまで取り上げてきた内容とは別に、さらに二つの印象的な場面がありました。

 ひとつは街頭インタビューで若者にマイクを向けた場面。
 ここで、
「彼氏はいませんが、今すぐに結婚したい」
と答えたのは21歳の女性。
 年齢は分からないのですが大学生の男の子は、
「子どもの受験とかお金の必要なタイミングを考えると、人生設計上、27歳で結婚すると決めている」
などと言います。27歳はその昔、男性が結婚適齢期と言われた年齢とほぼ同じです。

 インタビューを受けた21歳の女性が実際に2年間の婚活を経て23歳で結婚し、男子大学生が計画通り27歳で結婚したと考えると、幸せになれるかどうかは別ですが、かなり便利な人生が想像されます。

 女性が結婚から2年後の25歳で第一子を産み、28歳か29歳で第二子を産んだとすると4年経ってもまだ30代前半ですから第三子のことも考えられます。もちろん産まなくてもいいのですが、選択肢が残っているということが重要です。
 さらに33歳で第三子まで産んだとして、その一番下の子でも、18歳の成人式には51歳で参加できるのです。4年生大学を卒業させた時点で55歳、大学院に行きたいと言い出してもすべての学業を終えるときにはまだ57歳なのです。人生はまだ十分に残っている。

 同じ計算を27歳で結婚した男性に当てはめると、第三子が大学院を修了するのは61歳と足が出ますが、今の20代は70歳まで働かなくてはならない人たちです。すべての子どもが自立してから10年近い勤労生活が残っているわけで、その間の収入はすべて自分のものです。子どもに使っていた支出が一気にゼロになるわけですから、老後の蓄えはそこから十分にできます。
 インタビューに答えた男子大学生もこうした計算をしたのでしょう。

 番組は「恋愛より結婚を先に考える20代はけっこういる」というまとめ方をしましたが、恋愛の価値が低下した現代にあっては、極めて合理的で正しい判断と言えます。

 SNSでおおぜいの人と緩くつながる関係にはそろそろ疲れている、だから強固な関係が欲しい、そんなふうに感じている若者もすくなくない。
 SNSの世界では「恋人からこんな贅沢なプレゼントをもらった」と上げるひともいるが、むしろ必死な感じで虚しい。それよりも「結婚しました」「子どもがいます」といった方がキラキラ輝いて見える、そんな発言もありました。

 いずれにしろ、私たちは結婚しない若者にばかり目を奪われてきましたが、もしかしたらそれは恋愛結婚しか考えられないかつての若者の印象が、脳にこびりついているからかもしれません。
 恋愛結婚はほんとうにしんどく難しい。しかし恋愛抜きの結婚で幸せになれるなら一度はしてみたい、そんな若者は驚くほど多いのかもしれません。
 
 

 【「結婚は、いいものですか?」の答え】

 もう一つの印象的な場面は、若者から現代の結婚観を聞こうという座談会の最後に現れました。
 20代の女性がふと真顔になって訊くのです。
「結婚は、いいものですか?」
 それに対して木村佳乃さんは間髪を置かず毅然として言います。
「素晴らしいと思います」
 その反応の速さには驚きました。

 続いてマイクを向けられた所ジョージさんは、
「ウチの場合だけどね、もうすぐ(収録が)終わるじゃない、その時まず考えるのが“いま、カミさん何やってるかな”ってことなんだよ。
 夕方、(仕事が)早く終わると嬉しいんだよね。夕飯に間にあうから」

 それに対してアナウンサーが、
「いまが一番幸せってことですね」
と訊ねると、
「だんだん人生が深くなってくるとね、昨日と同じ繰り返しをしたいというのがステキな話になってくるんだよ」
 するとここで木村佳乃さんがびっくりした様子で割り込んで、
「ウチの旦那さんもまったく同じことを言います」
と大笑いします。その様子に、最初の質問者である20代の女性は目を丸くして、
「すご~~い」
を連発するのです。
 座談会は若者が大人を納得させる目論見で始められ、若者が納得して終わる形になりました。
 
 

 【結婚のすばらしさを伝えたい】

 先日、娘のシーナと電話で話していた中に、
「昔の男の人って、結婚は地獄だって言ってたでしょ」
という話がありました。“現代では、ある種の女性の取って結婚は地獄かもしれない”という話の前振りだったのですが、なぜか私はぼんやりした気持ちになってしまいました。「結婚は地獄だ」という言葉がピンとこなかったのです。

 それはおそらく、私が一度も地獄だと思ったことがないからです。もちろん天国だと思ったこともありません。それは天国だとか地獄だとかいえるものではないからです。
 
 もちろん結婚当初はしんどいこともありました。
 結婚は、違う家庭、違う社会、違う価値観の中で生きてきた二人が新しい共通の価値を生み出すこと――つまり“生れなおし”ですから、初めはやはり大変なのです。私たち夫婦の場合は遅い結婚で、相当に融通が利かなくなってからのことですからさらに大変でした。しかし地獄ではない。
 
 思うに「地獄だ」というのはまだ独身時代に未練があり、夫婦の価値感が調整しきれていないごく短い期間の、単なる愚痴なのです。試しに「だったら、やめたら?」と聞いてみれば10組に1組も別れることを考えたりしません。
 結婚して何年もたち、子どももいた上で「結婚は地獄だ」と言う人がいたら、その男は相当に怪しいという気がします。どんな家庭を築いてきたのか――。

 もっとも若い人たちが「結婚は地獄だ」と本気で信じてきたとすれば、それは私たちの責任です。先輩として、もっと前向きなメッセージを伝えなくてはなりませんでした。
 それは「結婚っていいものですか?」と訊かれた木村佳乃さんがすかさず「素晴らしいと思います」と答え、所さんが「夕方、(仕事が)早く終わると嬉しいんだよね。夕飯に間にあうから」と具体的に話す、そんなやり方でいいのです。

 さて、条件はそろいました。
 恋愛結婚の呪縛を逃れた若い世代も、結婚に対する夢まで捨てたわけではありません。私たちは結婚のよさを吹聴して、さらに彼らの背中を押しましょう。

 それは、今日までの話のもととなった超氷河期の子どもたちにも言えることです。彼らはもう40歳を越えましたが、今からでも遅くない、たいていの場合、家庭を持つことは素晴らしいことですし、だめだったら何度でもやり直せばいいのです。