このところ気の重かったアメリカ大統領選の話題、
民主党の候補がバイデンからハリスに変わり、
俄然、雰囲気が変わって民主党勝利の芽も出て来た。
ハリス旋風――そして私は妙なことを思い出したのだ、
という話。(画像:フォトAC)
【40歳を過ぎたら男は自分の顔に責任を持つべきだ】
閏年と夏季オリンピックとアメリカ大統領選挙は、常に同じ年にあります。いずれも4年に1度のできごとですから、パンデミックで開催年がずれた2020東京オリンピックのようなことがない限り、永遠にこのままです。そして私にとってここ10年近くは、そのために気の重い「4年に1度」となっています。オリンピックや閏年のせいではなく、アメリカ大統領選挙のせいです。
国際政治だとか世界経済だとか歴史とかいった問題ではありません。アメリカがもう癒しがたいほどに分断されていて「中道」とか「選ばない」といった選択肢がないことも、日本にとっては民主党政権よりも共和党政権の方がいいことが多いことも知っています。だからふたつにひとつなら共和党政権の方がいいということも分かるのですが、問題はそれ以前にあって、私はあのドナルド・トランプという男がとにかく嫌いなのです。アメリカ大統領ともなればほぼ毎日テレビニュースで顔を見なくてはならないのですが、それがあの男では敵わないと思っています。
何がいけないのか――ひとことで言うとそれは、「トランプの顔に品がない」からです。政策以前の「品」だの「顔」だので政治家を選んではいけないという人もいるかもしれませんが、かのエイブラハム・リンカーンは側近が携えてきた閣僚候補名簿から「顔が気に入らない」とひとり外して、側近から私と同じ批判を受け、こんなふうに応えています。
「40歳を過ぎたら男は自分の顔に責任を持つべきだ」
この言葉の背景には、人間の内面が顔に現れるという考え方があります。知性や品性、人生経験などが顔に表れるということです。40歳を過ぎるとその人の生き方や考え方が顔ににじみ出てくるため、自分の顔に責任を持つべきだという意味が込められています。
【イヤなものはとにかく嫌だ】
ドナルド・トランプという人物が政治的信条をロクに持たない俗な大衆迎合主義者で、目立つこと、ウケることなら正義に悖ることでもほとんど辞さない人種差別主義者、女性差別主義者、拝金主義者であることは論を待たないと思います。もちろんそんな人が世の中にいてもかまわないのです、アメリカ大統領でなければ。困るのはそんな俗物が偉大なアメリカ合衆国の頂点に立つことです。
ドナルド・トランプは「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」などと言って自国第一主義、反理念、反環境保護などを掲げていますが、私に言わせれば「世界に責任を持たない」「理想を掲げない」「やせ我慢しない」アメリカなんて、少しも偉大ではありません。アメリカがトランプの言う通りなれば、それは単に強大なだけでロシア・中国とほとんど変わりなくなってしまいます。
人間として、「ひとの話を聞かない」上に「平気で事実を捻じ曲げる」、「恐喝的で脅迫的」「厚顔無恥で横柄」、そんな態度はどうにも我慢なりませんし、向こう4年間もあの顔を見続けるとなるとウンザリです。
今年の春以降、「もしトラ(もしトランプが大統領になったら)」から「ほぼトラ(ほぼトランプ大統領が出現しそうなので)」へ、そして「確トラ(確実にトランプが大統領になるので)」になるにしたがって本当に憂鬱な気持ちになったのはそのためです。
【ハリス旋風】
私にもひとの悪口を延々と書く技術はあるのだ、という文筆上の技能を明らかにしたあとで、さて、ここにきて状況が変わってきました。
バイデン現大統領が選挙から身を引いて、カマラ・ハリス副大統領候補に名乗り出たのです。この人は弁護士出身で「アメリカの蓮舫」と呼ばれるくらい(私が呼んだ)舌鋒鋭く機転の利く人なのですが、副大統領でありながらほとんど実績がなく(二期やるつもりのバイデンが十分に仕事を振り向けなかった?)、そのくせパワハラ体質で著しく不人気――これで勝負になるのかと思っていたら最近では意外と善戦しそうな雰囲気が出てきたのです。というのは「傲慢トランプも嫌い、老人バイデンも嫌い」といういわゆる「ダブルヘイト」の人たちが、「ハリスなら投票してもいいかな」と、前向きな姿勢を見せて始めたからです。
アメリカの大統領選挙の行方は、始まる前にほぼ8割が決しています。まず間違いなく共和党(トランプ)側が勝つと分かっている州は共和党のシンボルカラーから「レッド・ステート」と呼ばれ、民主党(ハリス)側が勝つと分かっている州は同じくシンボルカラーから「ブルー・ステートと呼ばれます。ところがその中間にあって、実際にやってみないとどちらが勝つか分からない州は「スィング・ステート(揺れ動く州)」と呼ばれ、米国主要メディアは2024年大統領選のスイングステートとして、アリゾナ、ジョージア、ミシガン、ネバダ、ペンシルベニア、ウィスコンシンの6州を挙げているそうです。つまりこの6州がどちらを選ぶかで大統領選は決まってしまうわけです。
その6州を含めた最新の支持率調査では、トランプ・ハリス両候補の支持率は拮抗しており、フォーブスジャパンは『ハリスがほぼ「すべて」の激戦州でトランプをリード』、CNNが『ハリス氏とトランプ氏、支持率が拮抗』、ロイターが『ハリス氏が支持率リード拡大、トランプ氏に5ポイント差=調査』という状況になっているのです。
この状況を一部のマスコミは「ハリス旋風」などと呼び始めています。
- ハリス旋風はラストベルトに届くか アメリカ大統領選挙、経済への不満が壁に 混戦2つの米国 天下分け目の激戦州㊤ - 日本経済新聞
- ハリス旋風がSNS席巻、「不人気」覆す勢い保てるか 若い世代連帯 [アメリカ大統領選挙2024]:朝日新聞デジタル
- アメリカ大統領選でハリス旋風か…ユニークな生い立ちと“初めてづくし”のキャリアとは?:手作りフリップ|TBSテレビ:サンデーモーニング
【ハリスの旋風(かぜ)】
さて、ここまでが長い長い前置きです。実は私は、単に「ハリス旋風」という言葉に反応して、この文章を書き始めたのです。というのは「ハリス」「旋風」と並べてみると、私の世代の脳裏には「ちばてつや」の漫画またはアニメ「ハリスの旋風(かぜ)」しか思いつかないからです。漫画の方は『週刊少年マガジン』1965年16号から1967年11号まで連載され、テレビアニメの方は1966年5月から1967年8月まで全70話ありました。
静岡の暴れん坊石田国松はあまりの乱暴狼藉のために故郷を追われて上京。そこで名門ハリス学園の園長に見いだされ、持ち前の運動神経を発揮して野球部・ボクシング部・サッカー部などを次々と優勝に導くといった荒唐無稽な話でした。それで全部です。
「ハリス旋風」という言葉を聞いて「ハリスの旋風(かぜ)」というアニメを思い出した、それが面白かったという、ただそれだけの話でした。しかしこんな面白い話をなぜだれも話題にしないのでしょう?
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