(アルフォンス・ミュシャ『スラヴ叙事詩「ヴォドニャヌイ近郊のペトル・ヘルチツキー」』)
【アメリカ中間選挙が終わって】
終わってみれば大きな波乱はなく、事前の予想通り上院は共和党、下院は民主党の勝利ということになりました。
上院の改選議席35のうち共和党の現有数は8で、つまり8議席以上取れば過半数を制する状況でしたのでもともと有利だったわけです。
したがって下院の結果が民意となるのですが、そこで一定の「No!」を突きつけることができたのはよいことでした。ただしトランプ大統領はツイッターに、「今夜は大成功だった。みんなありがとう!」と投稿したとか――。
忘れていました。魔法の言葉「フェイク・ニュース!」で客観的事実をいくらでも曲げることのできる人でした。選挙結果と関係なく、これからも自信をもって、いままでのやり方を進めていくに違いありません。
日本のメディアには、トランプ大統領が内政で自由の効かなくなった分を外交で取り戻そうと日本にも過大な要求をしてくるかもしれないと煽っていますが、どっちみちそうする人です。冷静に対応策を練りましょう。
アメリカが頼りになる友人でないことがはっきりすれば、かえってやれることは多くなります。
【憧れのアメリカ】
思えばアメリカは一貫して世界の憧れでした。
映画「ウェストサイド物語」に「アメリカ」という曲があり、そこではプエルトリコ移民の子どもたちがこんなふうに歌っていました。
アメリカが好き 私の好きなアメリカ
アメリカならすべてが自由だ
摩天楼のアメリカ
キャデラックのブンブン走るアメリカ
工場がガンガン音を立てるアメリカ
アメリカなら人生は輝き 生活はすべてよし!
誰もが祝福される国 誰もが来たがる国 アメリカ!
【日本の中のアメリカ(昭和)】
私が子どものころ、テレビは草創期で国内制作の番組だけでは枠が埋まらず、そのために大量のアメリカンドラマが放送されていました。
今から考えるとなぜ私たちがアメリカの西部開拓史などに憧れなければいけなかったのか分からないのですが、「ローンレンジャー」やら「シャイアン」やら、「ララミー牧場」だの「テキサス決死隊」だのを見ながら、翌日は野山を駆け回り、指鉄砲で相手を撃ちまくるのがそのころの一番の遊びでした(撃たれたら十数え終わるまで死んでるんだぞ!)。
あるいは「ドクター・キルディア」だの「ベン・ケーシー」(猫の名前ではない)だのを通じて最先端医学に触れ、「0011ナポレオン・ソロ」や「スパイ大作戦(ミッション・インポシブル)」を見ながらアメリカの正義について考えたりもしていました。
「弁護士プレストン」を見ては将来は裁判で人を救う仕事につきたいとか、「タイムトンネル」に夢中になって本気で科学者になることを考えたり、「刑事コロンボ」で自分も地道な捜査に励みたいなどと思ったのもそのころです。
一方「うちのママは世界一」だとか「ザ・ルーシー・ショー」「奥様さまは魔女」といったファミリーコメディからはアメリカの一般家庭の生活を知ることができました(ほんとうは一般家庭でなかったのかもしれませんが)。
「パートリッジ・ファミリー」だと思うのですが主人公の女性が号泣する場面があり、ティシュ・ペーパーを箱からバンバン引き抜いて涙をぬぐったり鼻をかんだりするのを見て、紙をあんなに無駄遣いできる経済力の凄さに怯えたものです。
総じて私たちの目の前にはいつもアメリカがあり、そこに向かって歩いていたのです。
【教育の世界のアメリカ】
いつのころから、アメリカは目標でなくなってしまいました。
しかし新しいもの、良いと言われるものは、気がつくと今もアメリカです。
特に教育の世界では顕著で、エンカウンター、インクルーシブ教育、キャリア教育、ICT教育。メディア・リテラシー、プログラミング教育、学校マネジメント、PDCAサイクル、コミュニティ・スクール。教育バウチャー、学社融合フォーラム、特別支援コーディネーター、グランドデザイン、スクール・ハラスメント、アカウンタビリティ、コンプライアンス、ALT、ADHD、LD、ADD、AS、PTSD、NRT・CRT、NIE・・・・きりがありません。
学力でも道徳でも保健衛生を含めた体育でも、とうに抜き去ったはずなのに今も教育はアメリカに教えてもらわなくてはならないテーマなのです。
そう考えると、トランプ現象・アメリカの分断もあながち悪いものでもないのかもしれません。
【偉大なアメリカの終焉】
トランプ大統領は繰り返し“Make America Great Again”とか言っていますが、誰も憧れないような国が偉大であるはずがありません。正義や人権や民主主義のために戦わないアメリカなんて、なれたとしてもせいぜいが“might
America”です。中国やロシアと一緒、あるいは核を持った北朝鮮と同じようなものです。
誰も自分の国が中国になればいいとかロシアになればいいとか思ったりしないでしょう。それと同じように、アメリカが目指すべき国ではないこと、目指してはいけない国であることをトランプのアメリカは如実に示してくれました。 「ウェストサイド物語」でリタ・モレノが、
誰もが祝福される国 誰もが来たがる国 アメリカ!
と歌ったアメリカは、もうないのです。
教育も、学校も、もうそろそろアメリカから脱することを考えなくてはなりません。彼の国の教育を見習えば彼の国のようになってしまうかもしれないからです。トランプがそのように教えてくれています。