「ボーナス」とは細い棒状の茄子のことだと、
親に魔法をかけられ、見ないふりをして来た私も、
今度ばかりはボーナスについて調べてみることにした。
すると意外なことが次々と分かってきた、
という話。(写真:フォトAC)
【職員室内の給与差の話】
先週の金曜日(6月28日)、公務員にボーナス(期末・勤勉手当)が支給されてニュースになりました。国家公務員は「管理職を除く行政職職員(平均33.4歳)の平均支給額は、約65万9400円」(新聞報道)だそうです。地方公務員は自治体によってかなりの差がありますが、一般的には財政基盤が強固で常に民間企業と人材を奪い合わなければならならない都会の方が高く、田舎に行くにしたがって低くなると考えてほぼ間違いありません。
教員に限って言うと、多くの教職員は都道府県から給与をもらっていますから、都市部の市立学校に勤務しようが山村・島嶼の村立校に勤務しようが、給与・ボーナスに差はありません。ただし講師については、都道府県が採用する都道府県費の講師と市町村独自の施策として雇う市町村費の講師の別があって、両者の差はかなり大きい場合も少なくありません。ボーナスの額も相当に違っています。だったら全員都道府県費の講師になればいい、ということになりますが、勤務内容に違いがあったり、都道府県費講師に空きがなかったりして、泣く泣く市町村費に甘んじているという場合も少なくないのです。
学校の先生方は自分自身の給与も含めて金や身分のことには無頓着な人が多く、無頓着だから知らない、知らないから気を遣わないという場面もありがちです。しかし同じ「教師」でも市町村費の講師の中にはびっくりするほど安い給与で働いている人もいますから、ボーナスが出たからといってあまり浮かれて話さないよう、言葉には気を遣うべきでしょう。
【「ボーナスって、こんなにもらえるんですね」】
さてそのボーナス。先週金曜日の夜、X(旧ツイッター)に新任の先生らしい女性がひとこと、「ボーナスって、こんなにもらえるんですね」と驚いたように書いていて、それがいろいろな意味で微笑ましく、私はひとりでニンマリしてしまいました。
「こんなに」と言っていますが勤めてまだわずか3カ月。他の先生の半分も出ていない(たぶん3割程度)はずです。金額的にも呆れるほど少ないはずなのに、それでも「こんなに」というのはまったく予想していなかったからなのでしょう。その無頓着がいかにも教師らしく、微笑ましい――しかもそれにも関わらずはしゃいだ様子もなく、遊びに買い物にと張りきっている様子もないのは、思いがけない収入に戸惑っているからなのかもしれません。
新任教師の4~6月は地獄です。地獄のように忙しく、わけも分からず、気がつくとクラス自体が地獄の様相になっている、そんな場合もあります。
「もうダメだ、絶対に続かない、夏休みが終わったら諦めて辞めなくてはいけないかもしれない」
そう考えているところに予想もしなかったお小遣いが投げ込まれる。そして渡された明細表を見ながら、
「ああダメだ、これじゃあ辞められない、続けるしかない」
と逆の方向に引っ張られているのかもしれません。そこで私はちょっと意地悪な気持ちになって、耳元でこうささやきたくなるのです。
《先生! 来年6月のボーナスはその3倍以上だよ。いやその前に半年後の12月のボーナスだってその3倍以上出るんだ。辞められる?》
新任で心を病む人もいますから相手を選ばなくてはいけませんが、最初の3年間くらいはうまく行かないのが当たり前、若い先生にはもうひと頑張りしてほしい――それが私の悪魔のささやきの本音です。
【棒茄子の鍵】
ところでこの「ボーナス」という言葉それ自体について、私には懐かしい思い出があります。それは小学校の3年か4年生のころ、父と母がボーナスの話をしていたので割り込んで「ボーナスって何?」と訊ねた時のことです。両親は臨時収入があったことを子どもに知られるのは今さらながらマズイと思ったのか、単に説明するのが面倒だったのか知りませんが、「それはナスの話だよ」と答えたのです。
「ナスには普通のナスと丸い丸ナスと細長い棒ナスの三種類があるのよ」
前後の脈絡からウソだとすぐに分かったのですが、経験上、親のウソを暴いてもロクなことはありませんからそれ以上は追及しませんでした。ただそれ以来ボーナスには常に「茄子」のイメージが付きまとって、単純な言葉として感じられなくなってしまったのです。
「サラリー」という言葉はすっかり廃って今は「月給」とか「給与」というのに、ボーナスはなぜいつまでたっても「ボーナス」のままなのかとか、そもそも「ボーナス」って何語なんだ?とか、欧米の人たちも貰っているのかとか、疑問はいくらでもあるのに、心に引っかかりながらも調べてこなかったのは、「棒茄子」以来、「それは安易に口にしてはいけない言葉だ」と鍵をかけられたままだったせいなのかもしれません。
【教員のボーナスは調整額を含めた「給料の月額」が算定基礎だって知ってた?】
ところが先週の金曜日の、新任の先生の「こんなにもらえるんですね」で鍵が外れて、ようやく調べてみる気になったのです。すると何と、これが普通の英語なのですね。通常は役員以上に与えられる不定期の収入で、企業利益の分配という色合いが強いのだそうです。
英語での綴りはbonusで、語源は同じ綴りのラテン語 bonus(ボヌス)、ローマ神話に出てくる成功と収穫の神「Bonus Eventus(ボヌス・エヴェントス)」が由来で、「おまけ」とか「思いがけない贈り物」といった意味で使われるそうです。
日本では「賞与」と訳され、早くも明治時代には始まっていたようですが、江戸時代までさかのぼると幕府が役人に着物を支給したり、主人が奉公人に衣服を与えたりする“お仕着せ”という習慣があり、欧米由来のボーナスも《主人が使用人全員に渡すもの》として定着しやすかったのかもしれません。公務員の場合は期末勤勉手当と言いますが、期末手当と勤勉手当は本来は別物です*1。
調査の勢いが余って東京都人事委員会のサイトまで行って「期末勤勉手当の算出方式」というのまで見てきました。するとこんな式があったのです。
期末手当=(給料の月額+扶養手当+地域手当+職務段階別加算額+管理職加算額) ×支給率×支給割合
勤勉手当=(給料の月額+地域手当+職務段階別加算額+管理職加算額) ×期間率×成績率
注目すべきは「給料の月額」ですがこれは同じページに、
給料の月額=給料月額+給料の調整額+教職調整額
とあって、しかしここで話をメチャクチャ難しくしているのが、「給料の月額」と「給料月額」は違う概念であるという説明が欠けていることです。たぶん事務の先生あたりは相当に詳しいと思うのですが、「給料月額」というのは給料表に示された金額のことであり、「給料の月額」というのは「給料月額(給料表に示された金額)+給料の調整額+教職調整額」で、期末勤勉手当は後者を基礎に計算するわけです。
つまり教職調整額はボーナスの算定の基礎に含まれてくるのです*2。同じ考え方で、調整額は退職金にも入り込んでいます。
おそらく実現などしない、仮に実現するとしても働いた分の満額など絶対に出ない残業手当よりも、調整額の増額の方が有利かも知れないというのは、この点からも言えることです。それが10%以上(2・5倍以上)になるわけですから、ちょっと心動かされません?