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「教師の多忙」〜体感!日本教育超現在史③

 教師は多忙、というのはもはや常識となっていますが、なぜ多忙なのか、世間の人々は理解しません。夜の学校を見れば毎晩遅い時間まで灯りがついていますから、忙しいことはわかるがなぜ忙しいのかは理解できない。納期があるわけでも製品(授業)の質を厳しく問われているわけでもない、主たる業務は子ども相手で大人の厳しい要求と常にせめぎあっている俺たちに比べればずっと楽なはずだ――そんなふうに思っているのかもしれません。
 お互いの理解が深まらなければ話は先に進みませんからきちんと説明しておく必要があります。現職の先生方方も説明をしなければならないときの一助としてお聞きください。

 教師の生活がここまで多忙になった原因は三つの点から説明できます。それは制度と教育内容と環境です。具体的に言えば「教職調整手当て」と「追加教育」と「アカウンタビリティ」です。

 教職調整手当てについては文科省のホームページに詳しい(「教職調整額の経緯等について」)のでそちらを参照していただけばいいですが、簡単に言ってしまうと、「『勤務態様の特殊性があり、一般行政職と同じような勤務時間管理はなじまない』ので時数に応じた『時間外労働手当』は支給せず、その代わりに給料月額の4%相当を全員に支給する」というものです。平均給与35万円で計算すると一ヶ月14000円ほどになります。
 超過勤務をしてもしなくてももらえる14000円ということで世間的にはすこぶる評判が悪いのですが、これは昭和41年の平均超過勤務時間(8時間ほど)を基準としたもので、月35時間もの超過勤務状態にある現代からすると、極めて低い金額ということになります。

 実際、数年前文科省が「多く働く者とそうでない者との間に差をつけてよう――頑張る先生には高い収入を」ということで超過勤務手当がどのくらいになるか試算したら、現在の調整手当(1800億円)を3290億円も超えて総額5000億円にもなってしまい、慌ててひっこめた経緯があります(もっとも超過勤務手当が創設されたら、これまで持ち帰りにしていた仕事がすべて学校で行われるようになりますから、とても5000億円では足りないでしょう)。かくして調整手当は廃止されず、将来に渡ってなくならないこともはっきりしました(財務省が理由もなく歳出を増やすはずはないから)。

 しかしそれは同時に、教員は無限に14000円で使えるということを証明したことにもなります。なにしろ超過勤務時間が8時間から35時間に延長しても14000円でいいのですから、35時間が80時間に増えてもそのままです。そして実際に月の超過勤務が80時間を越える教員がざらに出てきたのです。
 朝の部活に1時間、午後の部活に2時間、一日の整理と成績処理を1時間に押さえたとしても計4時間。月の授業日数が21日間だとするとそれだけで84時間。土日の部活を入れれば軽く90時間を越えます。

 私が教員になった時にはなかったさまざまな仕事――たとえば学校評価など、「児童生徒評価」「保護者評価」「教員自己評価」「学校関係者評価」と集計しているだけで結構な手間がかかりますが、そのための時間が確保されるわけではありません。教職でなければ時間外にのした分、超過勤務手当が出されそれが実施上のコストとして計上されるはずですが、教員の場合はノー・コストですむのです。いくら仕事を増やしてもコストがかかるということがない。この部分に手が入らない限り、教員の多忙がなくなるはずはないのです。たとえ部活を外部委託んしても、その分いくらでも仕事が入ってくるからです。

(続く)

*こういう話をすると必ず出てくるのは「民間だって無限に超過勤務手当が出ているわけではない。場所によってはサービス残業が圧倒的に多いところもある」という反論です。しかしそれは民間が改めるべき問題であって、教育公務員が黙っていなければならない理由にはなりません。