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「『NHK短歌』が大河ドラマ『光る君へ』について言及したよ」~古典・漢文の学習はやはり必要。何なら英語はなくてもいい①

 EテレNHK短歌」で「光る君へ」の特集をやった。
 やはり誰が見てもこころ動かされるところは同じ。
 死の床で権力者は妻の詠んだ和歌を口ずさみ、
 清少納言は傷心の中宮のために「枕草子」を書き始める
という話。(写真:フォトAC)

NHK短歌スペシャル 短歌で『光る君へ』を10倍楽しもう!」】

 日曜日の朝のEテレは午前5時から宗教を題材とする「こころの時代」、6時から「NHK短歌」、6時25分~35分がラジオ体操、6時35分から「NHK俳句」と続きます。
 私の家では「こころの時代」と「NHK短歌」は気まぐれで流すときは流し、「NHK俳句」は妻の趣味なので朝食を取りながら見て、7時になるとフジテレビの「ぼくらの時代」にチャンネルを合わせます。それがいつもの日曜日の朝です。
 ところが一昨日(6月30日)は「NHK短歌」から、正座する気分でテレビの前に座りました。サブタイトルが「スペシャル 短歌で『光る君へ』を10倍楽しもう!」*1だったからです。出演者は歌人俵万智さんと作家:渡辺祐真(スケザネ)さん。声の出演は「光る君へ」のナレーションも担当している伊東敏恵アナウンサーでした。

【死の床で】

 番組の始まりは俵さんと渡辺さんが互いに印象的だった場面を紹介するところからでしたが、奇しくも一組の親子のそれぞれの臨終の場面という相似形でした。その一組というのは藤原道長(ドラマでは柄本佑さん。以下、心象が浮かびやすいように演じる俳優さんを敬称なしで書き加えます)の父親である藤原兼家段田安則)とその長男道隆(道長にとっては長兄:井浦新)です。この親子は歴史的に極めて似た境遇にあって――というのは、日本史の専門家ならともかく、一般的には本人よりもその妻の方が有名なのです。
 兼家の妻は「蜻蛉(かげろう)日記」を書いた藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは:財前直見)、道隆の妻は儀同三司母(ぎどうさんじのはは)の呼び名で知られる高階貴子(たかなしたかこ:板谷由夏)、ともに「小倉百人一首」に歌を残す超有名歌人です。
 
 兼家と道隆の臨終の場面はそっくりで、互いに最期に妻の名歌を口ずさみ、ひと声添えます。兼家は、
なげきつつ ひとりぬる夜の あくるまは いかに久しき ものとかはしる藤原道綱母
(あなたの来ないことを嘆きながら過ごす孤独な夜の長さを、あなたはきっと知らないのでしょうね)
 道隆は
忘れじの ゆく末までは かたければ 今日をかぎりの いのちともがな(儀同三司母)
(いつまでも忘れないというあなたの言葉、それが未来永劫ずっと変わらないなどありえないではないですか。だったらいっそ、今日をかぎりに命が尽きてしまえばいいのに)
 
 ドラマで面白かったのは天寿を全うした兼家が妻の歌を口ずさんだ後で、「あれはよかったのう」と歌の感想を呟いてから視線を遠くに送り、「輝かしき日々であった・・・」と自らの政治人生に満足しながら死んでいくのに対し、道半ばに病で急逝する道隆は妻の短歌を口ずさんだ後、「あの歌で、貴子と決めた」と、自らの人生を恋愛で締めくくったところでした。
 二人とも死の床で妻の歌を口ずさみながら死ぬという、ともすれば脚本のコピペ、手抜きにも見えそうなところをスッと逃がして意味を持たせる――いやはや一流の脚本家とは大したものです。

【四季:清少納言が「枕草子」を書き始める】

 番組ではそのあと大納言藤原公任(だいなごん ふじわらのきんとう:町田啓太)の歌を扱ったり、道長とまひろ(紫式部吉高由里子)の短歌と漢詩の応酬といった方向に話を進め、最後は清少納言(ファーストサマー・ウイカ)と紫式部の対比といった話に持って行くのですが、その前にいったん、清少納言が「枕草子」を書くきっかけとなった場面が取り上げられます。これは「光る君へ」の前半で、内容的にも映像的にも、もっとも美しい箇所でした。
 清少納言の主人である中宮定子(高畑充希)は、兄・伊周(これちか:三浦翔平)の愚かな行動に憤って発作的に出家し、最愛の夫・一条天皇のもとを離れます。しかし実際にそこまでする必要があったのか――一条帝の深い哀しみも伝わってくる中で、中宮定子の憂いもいっそう深まって行きます。清少納言はそんな定子ひとりを慰めるために、「枕草子」を書き始めるのです。
 その部分をNHK短歌の中の俵万智さんは、
「ききょう(ドラマの中での清少納言の本名)さんが四季・春夏秋冬の・・・とサジェスチョンしたときに、たぶん見ているほとんどの人たちが『春はあけぼの』『夏は夜』と思ったでしょうね。学校で古典を習っていてよかったなあ、やっぱり大事よね。あそこで『春はあけぼの』ってみんなが、全国の人が思えたんじゃないかと思って、そういう意味でもグッときました」
とおっしゃっています。私も同じことを、ドラマの少し後の部分で思ったのでした。
 それは清少納言が「枕草子」の最初の一行を書き始めるところから始まって、かなりの長い時間を使って四季の風景に重ね、各章が朗読されていく場面です。往年の名作映画「砂の器」で、故郷を追われた親子が四季の移ろう日本の景色の中を延々と旅したように、「光る君へ」の中で私たちも「春はあけぼの」「夏は夜」と口ずさみながら後を追うことになります。
(この稿、続く)

【追記】
NHK短歌 スペシャル 短歌で『光る君へ』を10倍楽しもう!」の再放送は、
7月4日(木) 午後2:10~午後2:35(東京地方)です