カイト・カフェ

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「ウサギとリンゴとビタミンの話」~ウサギの“ミルク”とカンザスの母親が見つけ出したもの

 たった一羽、生き残ったウサギの“ミルク”が突然エサを食べなくなった。
 そろそろ死ぬ準備を始めたのかと思ったら、
 突然、猛烈にリンゴの皮を食べ始め、やがて元気になってしまった――と、
 この話、どこかで聞いたことのあるような気がする。

という話。

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【ウサギはニンジンでアートをつくる】

 三羽いた中で唯一生き残ったウサギの“ミルク”が、最近、リンゴを食べることを覚えました。
 もともと悪食で与えられたものは何でも食べる子でしたが、口のきれいな他の二羽に合わせて、ラビット・フードやらキャベツやらしか与えていなかったのです。

 ところが一羽だけ生き残って、お尻の始末もいいところから部屋の中で放し飼いできるようになってからは、主人(私たち夫婦)の気まぐれでいろいろなものが与えられ、さまざまなものが食べられるようになったのです。
 ただし目の前にパンが置かれて戸惑ったこともありました。

 実は私は、ウサギがニンジンを食べるというのは伝説だと思っていたのです。以前、最初に我が家に来たネザーランド・ドワーフの“カフェ”に与えたところ、見向きもしなかったからです。

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 ところがあるとき、大きな生のニンジンを一本、悪食“ミルク”の前にドンと置きっぱなしにしたら、一週間もかけて不思議なオブジェ(右図)を制作し、さらに一週間かけて食いつくすと、あとはニンジンを目の前に置くだけで、すぐに齧りつくようになったのです。これで食のバリエーションが一つ増えました。

 次は何を食べさせようかと考えているうちに、ふと小学生のころ、学校で飼っていたウサギに冬の食料としてダイコン葉の乾燥させたものを与えていたことを思い出し、これも試してみることにしました。
 昔は毛を取って売るためにアンゴラウサギを買う家も少なくなく、学校は日本白ウサギでしたが、沢庵を漬けたあとに残ったダイコン葉を干して冬場の餌として使うことが多かったのです。
 現代の、ぜいたくに慣れた外国由来のウサギが、そんなものを食べるのかと半信半疑でしたが、これもよく食べました。
 そんなふうに毎日おもしろがっていたのですが、そんな悪食大食いの“ミルク”が、先月中ごろ、突然、何も食べなくなったのです。

【“ミルク”、死にかけて自ら治す】

 すでに8歳。人間に例えれば90歳を過ぎたお爺さんですので、そんなに食べなくてもいいのですが、まったく食べないというのは異常です。ウサギなんて、食って寝て、走り回って生涯を送るような生き物ですから、そのうちのひとつが完全に止まってしまうというのは明らかに死ぬ前兆なのです。先に死んだ二羽も、食が細ったというよりも突然食べなくなってそれから餓死するかのように死んで行きました。
 ネットで調べても、「食べなくなったウサギに、飼い主がしてやれることは何もありません。すぐに医者に連れて行きましょう」とあります。そこで明日は病院に連れて行こうと思ったその晩、妻が戯れに与えたリンゴの皮にとつぜん食らいついてとんでもない量を食べ始めたのです。
 まるで狂ったかのように貪り食って、仕方ないので次々と新しいリンゴを剥いて与えるとそれも片っ端食べてしまいます。
 翌日になると食欲はラビット・フーズやキャベツにも向かって行って、2~3日後にはそれで完全に治ってしまいました
 あれから一カ月以上たった今も、“ミルク”は元気です。

【ビタミン発見の話】

 話は変わりますが、いまから150年ほど前、アメリカのカンザス壊血病で苦しむ一歳の男の子がいました。なす術のなくなった母親はリンゴを食べさせようと、赤ん坊を膝に乗せたまま皮を剥き始めたのですが、驚いたことにその手から螺旋状に降りてきたリンゴの皮を、赤ん坊が手づかみでむしゃむしゃと食べ始めたのです。
 勘の良い母親だったのですね。病気の子が本能的に欲しがるものは体にいいに違いないと考えさらにリンゴの皮を食べさせると、容態はどんどん快方にむかって行き、野菜やイチゴジュースも加えてバリエーションも増やすと、やがて病気は快癒してしまったのです。
 現在ではビタミンCの不足が壊血病の原因だと分かっていますが、母親は本能的に息子の病気を治す栄養素を理解したのです。

 このときの赤ん坊はやがてウィスコンシン大学で栄養学の研究を始めるようになり、やがて世界最初のビタミンの発見者となります。栄養学史上最大の巨人といわれるエルマー・マッカラムです。
 マッカラムの発見したのはビタミンAでしたが、自分に関する母親の印象深い話を覚えていて、食品に含まれる未知の栄養素について、人一倍強い確信と執着心があったのでしょう。

 我が家のウサギは、もう年齢も年齢ですから将来学者になる可能性はなく、未知の栄養素を発見することもないと思いますが、自らリンゴの皮を食べて病気を治し、主人である私にマッカラムのことを思い出させたという点でとても立派な子です。

 いや立派な子ではなく、立派なお爺ちゃんですが、最近は日向ぼっこをする老人よろしく、ストーブの前で後ろ足を投げ出して眠るという、野性を完全に失った姿で私たちを笑わせています。

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