カイト・カフェ

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「ウサギを飼う前に」~これからウサギを飼おうとする人に覚悟してもらいたいこと

 ウサギ年だからウサギでも飼ってみようと思う人、
 ウサギを見て心奪われ、明日にも買いに行こうと思っている人、
 ウサギは飼いやすい生き物だが、
 ペットショップに行く前に、ちょっと立ち止まってくれ。
 という話。(写真:SuperT)

【ウサギという生き物】 

 今年はウサギ年だということでテレビやネットにウサギの登場場面が多くなり、その愛くるしい様子に“ウサギでも飼ってみようか”と思われる方もおられるかもしれません。
 
 ウサギは大声で吠えることもなく、人に噛みついたりひっかいたりすることも稀で、また種類にもよりますが、毛並みを整えたり服を着せたりといった手間もない生き物です。年がら年中からだのあちこちを舐めてきれいにしていますから匂いもなく、尿は多少匂うものの便は無臭でコロコロと扱いやすく、総じて室内を汚したり、匂いを充満させたりといったことのない便利なペットでもあります。
 
 性格はおとなくしく臆病で――と、ここまではある程度一般的かと思うのですが、人間同様、個体差が大きすぎて一概に言うことは困難です。
 我が家ではこの10年間に「カフェ」と名づけたネザーランド・ドワーフの雄1羽、「ミルク(雄)」「ココア(雌)」と名づけたミニウサギの雌雄それぞれ1羽ずつ、計3羽をほぼ同時に飼育しましたが、ネザーランド1羽は野性味が強くて触れようとすると激しく逃げ回り、雌のミニウサギは手を伸ばすと険しい表情で攻撃的な姿勢を取って前足で引っかこうとすることがありました。ところが雄のミニウサギの「ミルク」の方はまったく対照的で、私が手を伸ばしても逃げないどころか、進んで撫でてもらおうと頭を下げて低く伸ばしてきたりするのです。結果的にこのウサギだけが11歳の高齢で今も生き残り、いかにもペットらしい落ち着いた様子で家の中で暮らしています。

【これからウサギを飼おうとする人に覚悟してもらいたいこと】

 ウサギは本当に愛くるしく、特に最初の内はいくら見ていても飽きるということがありません。その点で人間の赤ん坊と似ています。しかし人間と違っていつまでもそのままなのです。

 たぶん実際に飼ってみて一番アテが外れるのがこの点で、さっぱり懐くことがない。芸を仕込ませたり一緒に遊んだりといったことも難しく、散歩も好みません。飼い主の顔を見てもうれしそうなそぶりも見せず、愛想を振りまくということもない。一言で言えば見かけは可愛いが可愛げはないのです。ただ見ているだけという意味では熱帯魚や金魚を飼うのと同じだ、と言えばだいたい想像がつくでしょう。個体によってはダッコもできません。ムリにすれば暴れて骨折することもあります。
 最初からそういうものだと極めつけておけばガッカリもせずに済みます。

【本来は追われ、捕えられ、食われる存在】

 ウサギのそうした性格はすべてその動物としての立場に由来すると考えられています。同じペットでも犬や猫は動物界で捕食者の側にいるのに対してウサギは被食者です。しかも食べられないための特殊な能力や武器があるわけではなく、ただひたすら走って逃げ、一刻も早く穴倉に駆けこんであとは敵が諦めて去るまでじっとしているしかありません。

 特徴的なあの長い耳は忍び寄る捕食者の発するわずかな音さえも捕えようというものですし、体全体の三分の一にも及ぶ大きな後ろ足は瞬発力を生かして一気に逃走するためのものです。犬も猫も左右の足を交差させて歩くことができますが、「うさぎ跳び」の名のごとく、ウサギは両足を前後に揃えて走るしかできません。それも瞬発的な速度を生み出すものと考えられます。

 逃げることには手練手管というものがありません。したがって犬や猫のような技巧を生かした生き方はできません。人間に懐かないというのも、そうした技術を獲得する機会がなかったからでしょう。

 ただし私のところのミースケ(失礼しました。ミルクはいつの間にか我が家でミースケと呼ばれるようになっています)のように10年も飼いウサギとして生きていると、自然と環境になじみ、何となくコミュニケーションめいたものが生れたりします。

 具体的に言えば空になった餌鉢をわざとらしく舐めて「エサはないよー」と訴え(ているように見え)たり、朝、起きてきたばかり私の妻のあとを追っ(ているかのように見え)たりするといった点です。昼行性でも夜行性でもない薄明薄暮性ですので、単に朝方の動きが活発というだけのことかもしれませんが、私たちに安心しきっているからできるというのも事実でしょう。もちろんミースケという個体だからできることであって、カフェやココアが長生きしてもそんなふうになったとは考えにくいところです

【命を預かることの収支と責任】

 エサ代やペットシートなどいわばウサギの維持費は、ネット検索では年8万円とか出ていますが、我が家の場合は1万円もかかりません。その代わりスーパーに買い物に出ると捨ててあるキャベツの皮を必ずもらってくるようにしていますし、自家製の人参もしょっちゅうやっています。これもネットには、「エサは干し草を中心に栄養不足を補うためにペレットを少々」とか書いてありますが、ミースケは高齢ですので甘やかしています。

 基本的に金のかからない生き物ですがいったん病気をするとウサギといえど最低4000円以上はかかってしまいます。保険がききませんから。雌のココアは婦人科系の病気で死にましたが、最後の1年間だけでも4~5万円もの治療費がかかってしまいました。事情があってタダでもらってきたウサギなのに。

 一度生き物を飼い始めてしまうと、長期的な旅行に出られなくなります。ウサギの場合はさらに暑さに弱いという特徴がありますから夏のエアコンも欠かせません。
 ウチのミースケ(ミルク)はとてもおっとりとした性質の、しかも高齢者ですからイタズラもほどほどですが、知り合いの家のウサギは口の届く範囲の壁紙をすべて噛み切ってしまったといいますし、別のお宅のウサギはジャンプするたびに空中放尿して壁をすっかり汚してしまったといいますから、これも覚悟しておかなくてはいけません。ミースケも一時期コードをかみ切る癖があったので行動範囲にあるすべてのコードは資材で保護してあります。そう考えると金のかかる個体もあるということになります。
 
 よく、
「赤ん坊を育てるというのは猫や犬を飼うのとはわけが違うんだから・・・」
といった言葉を耳にしますが、犬や猫、ウサギであっても、命を預かるというのはそれだけ覚悟の必要なことなのです。