カイト・カフェ

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「日本はiPhoneでアップルと同じだけ儲けている」~素材・機械安全保障の時代

 今回の対韓国輸出制限から 見えてきたことがある
 石油を断たれると工業が成り立たないように
 素材や製造機械を押さえられるとやはり工業は成り立たないのだ
 素材・機械安保の時代が始まった

というお話。

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【日本はiPhoneでアップルと同じだけ儲けている】

 韓国に対する輸出制限のことであれこれ読むうちに、意外なことに気づいたり、思わぬ勉強をさせられたりといったことがたくさんありました。

 例えば7月8日付の韓国中央日報日本語版に「薄型ディスプレー・金属機械…素材16品目は半導体より日本産比率高い(1)」という記事があって、その冒頭の一文。

米国のアップルが中国で組み立てて世界で販売するスマートフォン「iPhone」。グローバル市場調査会社IHSマーケットによると、製造コストが237ドル(27万8000ウォン、約2万5640円)のiPhone7が1台売れれば米国企業は68ドル稼ぐ。
この過程で米国と同じく68ドルの付加価値を得る国がある。それは日本だ。ディスプレーなどiPhone7に入る主要部品を日本企業が生産している。またメモリーチップなど韓国・台湾で作る部品を製造するのに必要な機械や素材も日本産である場合が多い。書類上の原産地国(中国)がスマートフォン1台を売って確保する付加価値(8ドル)より日本が8.5倍も多く稼ぐ背景だ。

 米中貿易戦争に関する報道の中で、「中国で生産される製品が売れなくなると、その部品供給元である日本の経済にも甚大な影響がある」といった話は聞いていましたが、日本の素材・製造機械産業が、まさかここまでとは思ってもみないことでした。

 iPhoneでアップル社は大儲けをしているらしい、機械本体は中国でつくっていてここもけっこう儲けている――そこまでが一般人の知識の及ぶところです。まさか日本がiPhoneで中国の8・5倍、アップル社と同等の金額を儲けているとは誰も思いません。
 
 

【素材や製造機械を握ったら勝ち】

 考えてみれば部品や素材、製造機械には顔がありませんから一般人の目に留まりにくいのです。顔がないからアップルとファーウェイとサムスンといったライバル企業にも売り込むことができますし、顔がないから妙に目立って叩かれる可能性も低いと、いいこと尽くめです。

 韓国についてはタイトルにある通り、「薄型ディスプレー・金属機械…素材16品目は半導体より日本産比率高い」で、薄型ディスプレー製造機械の74.2%は日本産。金属工作機械の方は全体としての日本依存度が38・4%ですが、コンピューター数値制御装置(CNC)に限って言えば90%以上が日本産。まさに韓国製造業の首根っこを掴んでいるようなものです。

 しかも韓国は日本の輸出相手国として第一位でありません。半導体等電子部品について言えば中国・台湾・香港に続く第4位で、全体の6・2%程度にすぎないのです(JFTCきっず・サイト)。つまり中国も台湾も香港も一部日本の支配下にあるわけです。

 今回の対韓国輸出制限を見て、これらの国や地域もいろいろ考えさせられることでしょう。日本と仲良くしなくてはいけないと考えるところもあれば、現地生産に励む国や地域も出てくるという両方の意味でです。
 
 

【なぜ日本の素材・機械産業は強かったのか】

 ところでなぜ、日本はこうした素材・機械部門において強い力を持っているのでしょう?
 これについても中央日報が仮説を立てています。japanese.joins.com それによると、日本の強さは、1 ノーベル化学賞受賞者8人を誇るように基礎科学に強く、多くの鉱山を持っている。
2 韓国よりも長い半導体製造史を持っている。
3 素材企業の多くが大企業であり、研究開発費だけで数十億~数百億円を投入できる。
などによるとされています。

 1990年代初頭から2000年代後半にかけて、世界の半導体市場を主導した上位10社のうちの半分がNEC・東芝・日立など日本企業でした。その後サムスン等が台頭し日本の半導体生産は衰退しましたが、生産技術や生産設備の優越性は失わなかったのです。

 

 

【素材安全保障の時代】

 かつて「半導体は産業の米だ」と言われたことがあります。“半導体のシェアを奪われたら生きてはいけない”と危機感を煽るのにつかわれたスローガンです。
 実際にその通りになった後は誰も口にしませんでしたが、今回の事件は素材と機械こそ「産業の米」ならぬ生命線だということを世界に知らしめることになりました。
 日本が世界第12位の工業国の、首を締め切る力を実際に持っていたと分かったからです。

 これからは資源安保と同じレベルで「素材・機械安全保障」も考えなくてはなりません。日本にとっては当面いまの優位性を失わないこと、そのための研究開発費を惜しまないこと、そして最近はすっかり軽く扱われるようになった基礎科学に再び力を注ぐこと、そのあたりが重要になるのではないでしょうか。