カイト・カフェ

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「もうすぐ二学期」②〜クラスのふんどし、戦う集団

 担任の当たりハズレという言い方がありますが、万人に良い担任というものも全員に悪い担任というものもそうはありません。
 何と言っても人間関係には相性というものがありますし、それ以前にどんな人とでもうまくやっていける強靭な精神もあれば誰ともうまく行かない厄介な精神だってあるわけで、そう簡単に当たりハズレで説明できるものでもありません。

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 私の二人の子について言えば、姉のシーナは担任が誰であろうとそこそこうまくやっていく性質でしたが、弟のアキュラの方は担任によって学校ばかりか家庭での生活まで左右されるところがありました。もっとも友だち関係ではシーナは振り回される傾向があり、アキュラの方はいつも安定していました。そういうものですね。
 そしてアキュラは小学校高学年から高校に至るまで、一貫して担任が好きではなかったのです。

 

【「担任が好きかどうか」は決定的な要素ではないが・・・】

 ただしそれはその時期、アキュラが一貫して問題児であったためで、担任の良し悪しとは関係ないでしょう。
 特に中学校3年間をお世話になった先生は非常に優秀で、悪い方向に進もうとするアキュラを強引に良い方向に捻じ曲げてくださった方です。親の立場からすればとてつもなくありがたい方ですが、捻じ曲げられた当人が “ありがたい”と感じるまでにはけっこう時間がかかりました。
 高校の担任は、これも3年間同じ人でしたが、こちらは親として感心できない人でした。
 アキュラからは「とにかく勉強一辺倒の人だ」と聞いてはいましたが、クラスマッチや合唱コンクールなど学校行事にはまったく無関心で、部活動や文化祭についても批判的な人でしたでした。
 それを私は、一年生の時の、学級PTA会長が開いてくれた「先生を囲む会」(つまり飲み会)で痛感することになります。

 

【私が刀を研いだ日】

「文化祭や部活に熱を上げているようでは受験勉強なんてできませんよ」
「旧帝(旧帝国大学)以外でめぼしい大学って、いくつあります?」
「部活をやりたかったらウチになんて来ず、M高に行けばいいんです。M高なら朝から晩まで勉強なんかしないで部活ばっかりやっていられますから、ハハ」
 最後の「M高」は私が伏字にしているのではありません。その人がいちいち「M(エム)」と言うのです。それは市内でも特にスポーツで有名な高校の頭文字であると同時に、「M(問題)高校」といった隠語を匂わせるものでした。

 私はほとんどキレかかっていたので思わず、
「M高って私の母校なんですけど・・・」
と言いかけて(本当は出身者ではない)しかし我慢しました。そしてその代わり、
「先生、受験は団体競技って言いますよね。大学を受けるのは個人個人だけれど、みんなで団結して、励まし合って、競い合って――」
と、まだ話し終わる前に、
「そーなんですよ! 集団で立ち向かわなくちゃ受験は乗り切れない。高校野球でも強いチームは必ず内部で声を掛け合い、切磋琢磨しあい、一緒に勝ち進んで行こうとする。ボクは生徒に、いつもそのことを言ってるんですよ。ハハ」
 その瞬間、私の頭の中で、一度結んだものがプチンとキレる音がしました。
「でも文化祭や部活についてはまったく協力も応援もしないのに、受験だけ協力し合って高め合う子なんて、何か嫌な生徒じゃありません?」

 アキュラのクラスの保護者と担任の懇親会というのは、それきり開かれることはありませんでした。
 聞くと翌日、
「昨日の保護者との会でアキュラくんのお父さんから合唱やクラスマッチでも団結して頑張る方がいいと言っていたので、みんな頑張ろう」
と言ったとか。
 その晩、私は久しぶりに父の遺品の日本刀(小刀)の手入れをしました。

 

【受験を戦う集団】

 義務教育の学校というのは地域が同じ年齢が同じというだけの何の共通性もない子どたちを集めた場所です。
 もちろん「人間」は「人の間」と書くように、寄せ集めであっても集団であること自体が良いことですが、学校は意図的な教育をする場です。寄せ集めの子どもを寄せ集めのまま置いておくのはもったいないことです。
 クラスマッチや合唱コンクールに、生徒と一緒になって夢中で取り組むタイプの素晴らしい先生たちが大勢いました。しかし終わってみると「結局この先生は高校受験で戦える戦闘集団をつくるために、これまで学校行事に一生懸命取り組んでいたんじゃないか」と疑わせるような先生もいました。
 どちらも優秀で、私なんぞそのどちらにもなれなかったのですが、部活を引退して燃え尽きた生徒が大勢いて、受験生になり切れない子がいて、男くささ女くささがムンムンするような中学校3年生2学期の、グダグダなクラスのふんどしを締め直すとしたら、かなり早い時期からそれを考えておく必要がありそうです。