カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「新年の目標と三つの悪夢」

 新しい年が始まりました。学校ではいよいよ今年度最後の学期です。
 私たちと違って子どもには年に何回も自分を見つめなおし、生まれ変わろうとするときがあると言います。新年、新学期、誕生日、そして(邪を打ち払って生きなおす)節分です。
 3学期の初日は「新年」と「新学期」が重複するゴールデン・チャンス。本気でやり直そうと思っている子が何人もいますから、大切に扱ってあげましょう。
 さて、

私的新年の目標】

 教員生活を通じて、3学期の始まりには必ず「新年の目標」や「新年の誓い」を書かせ、自分自身もなにがしかを記して一緒に壁に掲示するのが常でした。しかしこの歳になり、しかも現場を離れて思うことは、やはり「目標」や「誓い」は若い人々の意欲的で未来志向の活動だなということです。

 私くらいになると、「目標」や「誓い」の先にある輝かしい未来というものが想像できない――将来が暗いというのではなく、ましてや未来がないというのでもありませんが、何かを頑張れば必ず手に入る(あるいはそうなるかもしれない)大きな価値というものが想定できないのです。例えば、英会話を習得したとしてそれがどんな喜びをもたらしてくれるのか、楽器演奏が上達したとしてそれにどれくらいの喜びを得られるのか、あまり思い浮かばないのです。

 何か新しいものを獲得するとか、新しい自分に生まれ変わるとかではなく、何も起こらない、何も変化しないことにこそ価値がある、そんな気がしないでもありません。
 そういえば、先日の4日のNHKニュースをっちウォッチ9で市川海老蔵さんが「何事も起こらないことの尊さ」といったお話をされていました。2017年の目標を問われたときの答えです。
「麻央が元気になること。家の前の公園を家族4人が元気に走れるようになれば…。何事も起らないことの尊さを感じます」
 市川家のような切実な状況ではありませんが、私も目の前にあるもの、いま手の中にある幸せを確認し、「何事も起こらないことの尊さ」を大切にして過ごしたいと思いました。

【初夢と三つの悪夢の話】

 初夢とは「前年大晦日から元旦にかけてみる夢」「1月1日から2日にかけての夢」「1月3日朝の夢」とさまざまな説があります・・・とかテレビで言っていましたが、これは問題なく2番目でしょう。
 明治の初めごろまで使われていた太陰太陽暦では一日の始まりは「日の出」ですから、「前年大晦日から元旦にかけてみる夢」は前年最後の夢です。初夢=新年最初の夢はやはり元日から二日にかけての夢でなくてはなりません。

 ただし都合よくその日に夢が見られるというものではありません。60年を越える私の人生をもってしても、一日の夜に見た夢を二日の朝に覚えていた例はほとんどないように思います。
 そこで私は、その年最初に見た夢を初夢と考えることにしています。今年の場合は1月6日の未明に見た夢です。しかしその夢は旧知のものでした。大学受験を失敗するというものです。
 しかも今年の場合、何らかの事情で初日の試験が2教科で打ち切られてしまい、翌日再試験となったものの私はうっかり試験問題を持ち帰ってしまったためにがぜん有利になってしまった、図らずも不正によって合格を勝ち取れる立場に立って困ってしまった――そんな夢なのです。何の暗示なのでしょう?
 私が大学を受験したのは、もう半世紀も前のことです。それなのに今も悪夢に苦しめられます。当時の私にとってどれくらい負担だったことか!

 今も苦しめられる試験の悪夢というのはもうひとつあって、大学の後期試験を受けてしばらくしたら事務室から呼び出しがあり、行くと「キミは前期試験を受けていないから単位は認められない」と言われて震えるというものです。
 これは学生時代に実際にやってた大ポカで、そのためのちにとんでもなく苦しい目にあいます。ただしその夢は、最近、あまり見なくなっている気もします。

 それよりも頻度の多い第三の悪夢は、東京のアパートを引き払うことなく、何年も放置したまま家賃を払い続けているというものです。
 大人になって時間的に余裕ができたので引き払いたいのですが、その建物と部屋の様子はよく覚えているのに肝心の場所がわからず、いつまでもたどり着けない。
 いや、正確に言うと、その場所にはいつも行きついているのですがどうやって来たの分からない。分からないからもう一度行ける気がしない。じゃあ帰ることもできないのかというとそれも違っていて、どうやっても戻れる。行くのも帰るのも毎回道筋が違うのです。
 どうやっても行けない(またはどうやっても行ける)不思議な場所なのです。

 初夢が旧知の悪夢というのもかないませんが、要するにその暗示するものが、長く心に引っかかっていることなのでしょうね。

 本年もよろしくお願いします。