「ポピュリストたちの宴」a〜イギリスEU離脱の衝撃

 先週の金曜日、私は朝からNHKテレビを見ながら、昼過ぎまでイライラを募らせていました。画面の下にイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票の集計状況が出ていたからです。

 イギリスがどうなろうと私には関係ありませんが息子のアキュラは現在就活中。「イギリスのEU離脱」→「ポンド・ユーロ安、円高」→「リーマンショック以来の不況」→「新卒大学生の内定取り消し」→「アキュラに行くところがない」ということできわめて個人的なレベルで不安だったのです。

 結果はご承知の通り。午後0時40分ごろ、BBCが速報を出して離脱派の勝利でした。アキュラにラインのトークで絶望を送ると、「今、買っておくべきはドルなの? ポンドなの? ユーロなの? 円なの?」という頓珍漢な答え、もう一度絶望の淵まで歩いて行ってきました。

 古いジョークに、

ドーバー海峡霧深し、ついにヨーロッパは孤立した」

というのがあります。

 イギリス人の誇り高さを揶揄したものですが同時に“あいつらほんとうに分かっていない”という意味もあるのかもしれません。今回イギリスのEU離脱を見て、突然この話を思い出しました。

 しかしどうしてああも易々と騙されたのか。

 離脱して一時的には関係も冷え込むがヨーロッパがイギリスを無視できるはずがない、イギリス抜きでEUがやっていけるはずもない。すべてを自分たちで決定できるようになればイギリス経済は必ず復活し強い大英帝国が戻ってくる。この国のルールをつくるのはイギリス人だ。今日は独立記念日だ!

 イギリスが世界第5位のGDPを誇り、日本が1000を越える企業を進出させて中国が7兆円以上の投資をしたのも、すべてはイギリスがEUの加盟国であるからです。イギリスがEUの窓口となっているからであってEUでないイギリスなんてただの没落帝国です。

 早くも金曜日の午後にはスコットランド独立運動が再燃し、昨日はロンドンが独立しようという話も出ています。ロンドンはともかく、今後スコットランド北アイルランドの独立にはEUの後押しが期待されます。

 それにもかかわらず、イギリス人が“やっていける”と信じているのは「ブリテン・ファースト」とか言って扇動した恥知らずのポピュリストがいたからです。

 土曜日の朝、離脱派の重鎮ボリス・ジョンソンの家を取り囲んだ群衆から、「恥知らず」の怒声が飛び交ったのはそのためです。根拠のない甘言で人々を欺いたことに“恥じ入れ”という意味です。

 さて、恥知らずな扇動家といえばボリス・ジョンソンにそっくりな風貌の初老の男が、アメリカ合衆国では共和党の大統領候補となって人々を煽っています。日本や韓国から手を引き、強いアメリカを取り戻すとか言っていますがその論法が私にはわからない、世界から手を引いたアメリカなんて少しも偉大ではないと思うからです。

 アメリカが手を引けば東ヨーロッパはロシアに、アフリカおよび東アジア・東南アジアは中国に、中東はISにあっという間に席巻されてしまいます。そうなると合衆国なんてすぐにカナダ・オーストラリア程度(大きくて経済力もあるけどあまり畏れなくていい国)です。

 アメリカに手を引かれて困った日本・イスラエル・トルコなどは軍備を拡張し核武装して自国を守ろうとするかもしれません。北朝鮮に見るように“核”は最も安上がりな軍備ですから。

 しかしそうなったら新たな核保有国はアメリカやロシア・中国と対等ですからそう簡単には言いなりになったりしません。特に日本は何度もアメリカに煮え湯を飲まされていますから素直に従うはずもないのです。「Make America great again」など夢のまた夢、たくさんの国々がアメリカをバカにし始めます。

 それにもかかわらず、現在のアメリカではドナルド・トランプの妄言がまかり通ります。少なくとも共和党員の半数以上はアメリカが世界から手を引いて南に万里の長城を築き、それで偉大な国になると本気で思っています。

                                            (この稿、続く)