カイト・カフェ

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「選挙に無関心でいられる、嘘をつかずに済む」~この国の平和ボケも悪くない  

 明日、英国下院総選挙。
 しかし選挙予想、あたるのだろうか?
 世界中の国々で、投票前調査で嘘をつかざるを得ない状況がある、
 無関心でいられない状況がある。
 それに対して我が国は・・・

という話。

f:id:kite-cafe:20191211072225j:plain(「ロンドンブリッジ夜景」PhotoACより)

【選挙予想がまったく役に立たない国々】

 昨日イギリスのEU離脱についてお話しした際、
 予想は今のところジョンソン首相率いる保守党有利ということになっています。
と書きましたが、ふと思い出したら2年前、当時のメイ首相が背後を固めるために打って出た総選挙のときも、公示前は「保守党、圧倒的優位」でした。
 もちろん勝てると踏んだからこそ議会を解散したわけですが、選挙戦が始まると労働党との差は見る見る縮まって、結局保守党は過半数割れ、今日の混迷に輪をかけた形になったのです。

 そう言えばそもそもEU離脱の是非を問う国民投票だって残留派が勝つと思ってキャメロン元首相は実施したわけで、イギリスの投票予想はことごとく外れるのかもしれません。

「イギリス人は歩きながら考える」といいますから、歩いているうちに気が変わってしまうのでしょう。
(参考) kite-cafe.hatenablog.com

kite-cafe.hatenablog.com

 大番狂わせといえば3年前のアメリカ大統領選挙だって「トランプ勝利」の判定が出る数時間前まで、クリントン陣営は勝ちを疑っていませんでした。世界中の予想屋・選挙アナリストがヒラリー勝利を疑わず、日本ではトランプ支持者でもないのに「残念ながらヒラリーが勝つでしょう」などと余裕のコメントをした評論家もいたくらいです。

 「隠れトランプ」と呼ばれるような人たちが山ほどいたわけで、あんな下品な男の支持者だとばれるのが嫌で、事前は頬かむりをしていただけだったのです。

 

【表情を隠すサイレント・マジョリティたち】

 投票フェイクとか投票ポーカーフェイスとか言っていいような事前のニセの表明が、大々的に行われたのは先月香港で行われた区議会選挙です。

 遠く離れた日本で、ニュース番組だけを頼りに予想していた私のような人間には、民主派が絶対勝つ直接選挙を、なぜ香港政府や中国中央政府が許したのか、そのこと自体がなぞでした。
 一週間前の土日でさえ市街戦さながらのデモは続いていたのですから、社会混乱を理由に選挙を(無期)延期にしてしまえば、7割も持っていた議席は守れたはずです。それをなぜやってしまったのか――。

 “香港政府が都合のよい情報ばかりを中央政府に上げていたからだ”という説があります。
 それでいちおう共産党中央が判断を誤った理由は説明できます。しかし結果が予想できていたら、いかに調子のよい香港政府だって怯えて真実に近いものを中央に報告していたはずです。
「8割以上もって行かれるかもしれません」とは言えないにしても、「民主派が過半数に迫る勢いです」くらいは言えたはずです。それをどう誤ったのか、自分たちが勝つ、少なくとも負けないと本気で考えていたみたいなのです。

 考えてみると選挙前のマスメディアの予想も、「議席の8割」などという大勝はまったく考えておらず、
「民主派が3割の議席を守れないようなら、運動は大きな曲がり角を迎えることになります」
といった解説を、私も聞いた覚えがあります。

 要するに、「重大な局面では、ひとはほんとうのことを言わない」という当たり前の動きがあっただけなのです。それをマスコミは読み切れず、香港政府はまったく読み間違えた。
 現場だからかえってわからない、ひとの話を聞くから余計に判断が狂う、そういうこともあります。香港市民はこぞって真の表情を隠していたのですから。

 結果論ですが、5年前の雨傘運動は市民に足を引っ張られるようにして2カ月あまりで終わってしまいまったのに、今回は半年以上続いてもデモ隊を非難する声はさっぱり上がっていませんでした。
 学生は次々とプラカードを掲げて集まってきますが、あの統一されたプラカードや横断幕の費用は誰が出したのか――そう考えると“もの言わぬ大衆”が陰で何を考え、何をしていたのか、自ずと想像できます。
 香港では若者はマスクをつけていますが、大人たちは“顔”自体がマスクでした。

 

【無関心でいられる、嘘をつかずに済む】

 話を戻しますが、イギリスはさすが議会制度発祥の地、総選挙の投票率は常に高いところにあります。
 1990年代から2000年代にかけてやや下がりましたが、ここのところ盛り返して2017年の下院選挙で68.8%。同じ年に日本でも総選挙がありましたが、そのときの投票率は53.68%――。
 15%の差は小さくありません。日本の有権者数はざっと1億人ですから1500万人も余計に行かないと到達できない数字です。

 イギリスのその高い投票率に寄与しているのが若者たち。18歳から30歳までの投票率は58%~62%もあり、今回、もしジョンソン保守党が負ける、ないしは伸び悩むとしたら、この層が大挙して投票所に向かい、労働党に入れるからではないかとさえ言われているのです(若者の80%以上はEU残留派であるため)。

 翻って、日本の20代の投票率は前回の総選挙で30%~35%ほど、イギリスの若者の半分くらいです。情けない話ですが、情けないのは若者ばかりにはなく、私たち60代でさえ前回は66%~70%。イギリスの同年配の81%に遠く及びません。大人としてほんとうに恥ずかしい。

 しかしちょっと目先を変えて、
「何が何でも選挙に行って政治に影響を与えなくてはならないと、思い詰めずに済む国」
 そう考えると、私たちもけっこういい国をつくって来たじゃないかという気にもなります。

 また日本の場合、選挙特番で投票の締め切り直後に、
「開票率0%で当選確実が出ました!」
と数学的にはあり得ない発表が行われるのは、これも現在の日本が嘘をつかずに済む国だからです。

 無関心はいざというときの感覚を鈍らせますから投票には行くべきですが、平和ボケでも生きていかれる我が国、悪くはないと思います。