カイト・カフェ

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「良い独裁と悪い独裁」~統合から分断へ②

 分断を深めるイギリスやアメリカや韓国、そしてその他の国々、
 これらもともとバラバラになりやすい傾向があったからこそ分断が進むのだ。
 では、それをどうやって止めたらよいのか?
 どうしたら世界はまとまりを取り戻すことができるのか。

という話。

f:id:kite-cafe:20200204115448j:plain(「ガラスの地球儀と地図 ブルー」 PhotoACより)


【イギリスの場合】

 イギリスは言うまでもなく連合国家です。正式名称は「グレートブリテンイングランドウェールズスコットランドの連合体)および北アイルランド連合王国」で、有名な国旗の「ユニオン・フラッグ(ジャック)」はウェールズを除く三つの国の国旗を合体させたものです。
 ワールドカップ・サッカーやラグビーで4つの地域それぞれからチームを出しているのも、歴史的経緯もさることながら、4つの地域に独立心が強いことの反映でしょう。

 イングランド(=アングロサクソン人)・スコットランド(=スコットランド人)・ウェールズ(=ケルト人)と基本的な民族も異なります。
 北アイルランドの立場はさらに微妙で、つい最近までイギリスからの独立戦争を戦っていたくらいですから分離・分断への意志は今も燻っているとみて間違いありません。
 EUの離脱問題はこの4つの地域と完全に一致しているわけではありませんが、国内に常に分断の力が内包されているという事実は見逃せないでしょう。
 
 

【合衆国はどうか】

 アメリカ合衆国は、これも言うまでもなく最初から多民族国家です。文化の異なる人々が一緒に暮らしているのですから当然、離反圧力は強い。

 そこで(最近はずいぶん減ってきたようですが)、学校でも全校集会や朝礼の際には必ず、国歌斉唱・国旗敬礼・宣誓の言葉をしていました。

 宣誓の言葉というのは以下のようなものです。
「神の御下で全人に自由と正義をもった、分かちえない国を象徴している、アメリカ合衆国の国旗とその国家に、忠誠を誓います」

 日本では卒業式などの重要行事における国家斉唱がせいぜいで、全校集会のたびに、
「日本国の国旗とその国家に忠誠を誓います」
などとやっていられませんし、その必要もないのですが、手ですくえば指の間からボロボロと国民の漏れていきそうな合衆国では、そうした配慮も必要なのでしょう。さまざまな仕組みで砂粒のような人々をまとめておかなくては、すぐに崩れてしまいます。

 人種差別禁止、女性差別撤廃、児童保護、弱者救済といった人権にかかわるさまざまな概念のほとんどがこの国で発展したのは、人々がそうした理念の整理・統一を常に図っていないと国家がバラバラになってしまうと考えたからです。
 ところがトランプ一派は、
「そんなものはいらない。ポリティカルコレクトネス(政治的公正)はうんざりだ」
と理念の統一を蹴飛ばし始めました。これはもう“合衆国はバラバラでいい(その上で白人が君臨する)”と宣言したも同じです。
 
 

【韓国:隠された分断】

 韓半島が南北に分断されていることを知らない人はいないでしょう。しかし「南南葛藤」と呼ばれる韓国内の対立については、日本の報道ではあまり扱われてきませんでした。

 これは簡単に言ってしまうと保守派と進歩派の対立を、地域という視点から見る考え方で、韓国南東部・慶尚道を支持基盤として保守的な政治理念で国家をリードした朴正熙(第5~9代)大統領と、韓国南西部・全羅道を支持基盤として革新的な政策を主張する金大中(第15代)大統領の政争に始まると説明されています。
 先に政権を握った朴正熙大統領は独裁的な手法で慶尚道に国家の富と資源を集中して国を発展させ、取り残された全羅道は保守政権に反発する進歩派の牙城となったと――。

 しかしこれは結局、百済慶尚道)と新羅全羅道)の抗争だと説明する向きもあり、1400年に渡る確執だと考えると、もう回復のしようがないように思えてきたりもします。過剰なほどの権限を持った大統領にして、初めてまとめられるものなのかもしれません。
 
 

【良い独裁と悪い独裁がある】

「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二種類の文字、そして一つの連邦国家
と表現された旧ユーゴスラビアはヨシップ・チトーという天才的カリスマ指導者が亡くなると同時に分裂し、血で血を洗う民族紛争に発展しました。普通の戦争ならある程度の死傷者が出たり経済的に破綻することによって止まりますが、民族紛争はときに民族浄化(異民族を抹殺する)にまで発展します。
 ユーゴスラビア紛争はまさにそのレベルまで進んでしまい、世界も“もういずれかの民族が滅びるまで続けさせるしかない”というところまで追い込まれてしまったのです。

 考えてみるとこれが本来の国家の在り方なのかもしれません。同じ土地にいるということ以外にほとんど共通性を持たない民族の、放っておいたらいつでも抗争になりかねない関係をなんとか調停し、調整する、そのために政府を置いてやっとのことで平和を保っている――。

 旧ユーゴスラビアのチトー大統領は独裁者とも言われた人です。
 アラブの春独裁政権が次々と倒れた後、それらの国々は平和になったでしょうか?
 今日のシリアの安定は独裁者アサド大統領が力を盛り返したからではないか?
 14億もの人口をもつ中国がバラバラにならず世界第二位の経済力を持つのも、ロシアが今もなお国際政治において大きな発言力を持つのも、結局は習近平プーチンという強力な独裁者を頂いているからではないか?
 つまり世界には「悪い独裁」ばかりでなく、「良い独裁」もあるのではないか、そんな気にもさせられます。

――しかし待て、そんなことは子どもたちに教えられない。
 そこには何か、思考の錯誤があるかもしれません。
 
(この稿、続く)