「100人学級だってかまわない」

 財務省が小学校の35人学級制度(法的には小学校1年生のみ、予算配置で2年生にも拡張)をもとの40人学級に戻せと言っていることに関し、Webの掲示板に投稿がありました。「啓示板」はかつて私の主戦場でしたが、ここ10年ほどはすっかり枯れ、なかなか書き込みがないのと同時に閲覧者も減ってしまいました。
 せっかく書き込みいただいたので勇んで返事を書いたのですが、 “あちら”だけでは読んでいただく機会もほとんどなさそうなのでこちらにも転載したいと思います。少し長文になっています。

【以下、本文】
 財務省の言うところは、35人学級にしたのにもかかわらずイジメも不登校も減っていないじゃないか、費用対効果が見られないじゃないか、ということでしょう。話の持って行き方が悪かったのかもしれませんね。

 昭和21年か22年ごろのことだと思いますが、私の父の弟、つまり叔父にあたる人が若くして病気で亡くなりました(何の病気だったかは聞き漏らしました)。医者からは当時の特効薬、ペニシリンを5本ほど打てば治るかもしれないと言われたのですが、とにかく高価で、3本分のお金しか集められず、それでもムダと承知で購入したそうです。

 薬毒には効果を生み出すための最低の量(=閾値)があり、その分量以下では薬効も毒性も発揮できないのです。
 35人学級はそもそも学校問題の特効薬ではありませんが、小学校1・2年生だけに実施しても閾値のはるかに下だったというのが実情でしょう。学校の諸問題を解決するにはそれでは足りないのです。

 では、小学校1年生から中学3年生まで全学年で実施すればイジメや不登校はなくなるかというと、それも確証が持てません。そもそも40人が35人になるとものすごく余裕が出て来るわけではないからです。
 40人学級というのは41人になったら2クラスにするという意味です。81人になったら3クラスです。つまり最低20人、最大40人のクラスにするということになります。

 同様に35人学級は36人で2クラス71人で3クラスになります。一クラスの人数の幅は18人〜35人です。
 20人〜40人に比べて劇的に状況が変わるわけではないことは数字上からもはっきりしています。

 最初からそんなことは分かっていました。35人学級を求めた側もそれで学校問題の大半をよくするといったわけではないのです。それはあくまでも欧米並みの25人学級あるいは20人学級への橋渡しであって、究極的な目標ではありませんでした。ですから財務省にはこう言えばよかったのです。
「20人学級、25人学級を要求したいのはやまやまなだがそんなことはムリだろう。財務省もムリなら教員確保の面から文科省だって対応できない。だからとりあえず35から始めようと言っているのだ。ここで40人学級に戻すのは、これまでの予算投入をすべて投げ出すのと一緒で、納税者に説目責任が果たせないだろう。とりあえず小学校1年生から中学校3年生まで、全学年で35人学級を実施してそれから考えろ」
 しかしこれを通用させるのはなかなか難しそうですね。

(以下、別の話)

 ただし私個人は25人学級にも30人学級にも不賛成です。35人学級だって気乗りしません。なぜならこれだとクラスの最低人数が13人〜18人になってしまい集団生活や役割分担を学ばせる上で支障が出るからです。
(さらに一クラス最大40人〜45人を基本に蓄積してきた日本の公立学校の教授法を根本から見直さざるをえず、その場合のエネルギーロスが計り知れないというのも理由のひとつです)

 本当は40人学級だって45人学級だって十分にやって行けたのです。クラスの全員が教師の言うことをよくきく、まじめで学習意欲の高い、そして賢い子であれば100人のクラスだって可能です。
 そこでです。35人学級制度のもとで児童数が36になり、18人の学級二人分の教員が配置されたとき、それでも2クラスにしないというのはどうでしょう。36人のまま1学級でチーム・ティーチングを行うのです。

 クラスの中で特に勉強の遅れる子がいたら、その子たちの間をひとりの担任が巡り歩けばいいのです。そうすればもう一人の担任が対応している「その他の子」は、少なくともその教科についてはあまり苦労しなくて済む「賢い子」だけになります。
 授業中に誰かがパニックになるようなら一人がその子を連れだし、廊下で落ち着かせ、しっかり勉強できる態勢をつくってからクラスに戻ればいいのです。そうなると教室にいる子はみんな「いい子」ということになります。

 18人の二クラスにしてしまうとそういうわけにはいきません。その学習が苦しい子に担任の手が取られてしまうと、その間「その他の子」はほったらかし状態です。クラスの中で一人パニックになってその子を外に連れ出すと、そのあいだじゅう教室は放置され、「その子」が落ち着いて戻るころには中の全員がパニック状態ということもありがちなことです。

 この話を突き詰めていくと一学級の児童生徒数は40人でもいいから二人担任にしろ、二倍の教員をよこせといった話になりそうですがそこまでは言いません。
 1学年1〜3学級の学年に一人、3〜6学級の学年に二人、とりあえずそのあたりから始めれば日本式の道徳教育(人間関係の教育)を守ると同時に、さまざまな学校問題に対応できるはずです。

 ただし単級(1学年一クラス)の学校では職員が2倍になるわけですから財政上の負担は35人学級の比ではありません。
 財務省がウンというわけがありませんし、文科省もいきなりそこまでの要求は出せないでしょう。

 かくして日本の公教育はOECD34か国中最低の教育予算を誇り、教師の献身的な努力によって辛うじて支えられる日々が続いて行くのです。