カイト・カフェ

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「中学校は学級担任を独立させ、小学校では副担任を充実する」~私の“教員の働き方改革”案⑤(最終) 

 仕事が減らせない以上、教員を増やす以外に抜け道はない。
 中学校は担任業務を専任化し、小学校は副担任を充実させる。
 そのための予算は膨大だが、
 学校が滅びるよりはマシだろう。

という話。  f:id:kite-cafe:20211022073811j:plain(写真:フォトAC)

【中学校、学級担任専任制度】

 昨日は最後の方で、

 中学校も同様で、(1クラスの人数を減らしても)ひとりの学級担任が専門教科以外に「特別の教科道徳」も「総合的な学習の時間」も「特別活動」も「追加教育」も「部活動」も、全部指導しなくてはならないという大変さは変わらない。
と書きました。
 ついでに一言添えておくと、「総合的な学習の時間」()も「追加学習(キャリア教育やITC教育など)」の大部分も平成以降に増やされたものです。失われた20年でどんなに仕事を増やしても教員志望がなくならなかった時代の遺物です。
*以下、「特別の教科道徳」は「道徳」、「総合的な学習の時間」は「総合」と略します。

 そうした学級担任の大変さをどう解消させるかといえば、答えは簡単です。昨日までにお話しした通り仕事が減らせないなら、ひとを増やして分担するしかありません。繰り返しますが少人数学級は教師の負担をさほど軽減させません。書類を作成して40人に配る仕事で、対象を5人減らしても削減できるのは5人分の印刷・配布時間だけです。書類作成の時間が減るわけではありません。

 ではどのように分担するのか。予算に限りがありますから、できるだけ増員を少なくして分担するとなると、学級担任にしかできない(学級担任がやるにふさわしい)内容とそうでないもので二分するのが適切でしょう。前者に当たるものは学級運営・「道徳」「総合」「特別活動」「(各種)追加教育」、残りが教科指導と部活動ということになります。もちろん「道徳」と「総合」も専科の教員があたればより質の高い授業になるでしょうが、教員はそんなに増やせません。

 教科指導と部活動がなくなれば暇すぎると考える人もいるかもしれませんが、そんなことはまったくないでしょう。これまで多忙のためにおろそかにしていた部分もたくさんあるのです。例えばいじめ問題も、担任に時間的余裕がありますからその日のうちに対応できます。これまでは他のクラスの授業に行かなくてはならなかったので、生徒と話す時間がなかったのです。
 もっとも眠っていた仕事の掘り起こしはすぐに担任を圧迫しますから、さらに「追加教育」が増えるようなら、「道徳」や「総合」の専科化も考えなくてはならないでしょう。

【教科・部活担当教員】

 教科担任と部活顧問の兼任は必ずしも最良の選択というわけではありません。何といっても部活動は時間外労働が前提です。それが好ましいはずはないのです。しかし部活顧問を学校から切り離し、別の職業として生活できるだけの年収を保証するとなると、とんでもない予算が必要になります。実働1日3時間、月25日の部活顧問に月収20万円のもの予算をつぎ込むくらいなら、その分を学校に投げ入れてもらった方がよほど得です。
 教科担任と部活動の兼任教師の時間外労働は、すでに決まっている変形労働時間制で保障し、長期休業中に心おきなく取ってもらうようにします。

 教科担任と部活顧問の兼任制には別のメリットもあります。新規採用者は優先的にここから始め、数年かけて学級担任ができるように研修してもらうのです。そのために副担任として給食指導や清掃指導の現場にも入ってもらうようにします。
 異常な仕事量を考えなければ、学級担任はかなり魅力的な仕事です。学級だけに携わっていればいい担任専任制が始まれば、教科担任を経て学級担任になろうという希望者は必ず増えます。

【小学校は副担任を入れてチーム・ティーチング】

 小学校も同様に担任専科制にできればいいのですが、現在の態勢の上に各校最低でも9人の専科教員を配属するといった大胆な改革ができるはずもありません。学級担任が1教科受け持つにしても8人も必要です。
 昨年あたりから政府が「小学校でも教科担任制を」と言い出していますがあれは別で、マヤカシにすぎませんからあてにしてはいけません()。

kieth-out.hatenablog.jp

 私は小学校の場合、副担任を充実させるべきだと思っています。それも当面は3学級にひとりといった配当が予算的に限度でしょう。単級(1学年1学級)のちいさな学校の場合は、学年を通して1~3年生にひとり、4~6年生にひとりといった形で配当します。これも新規採用者の受け皿として活用します。

 副担任は3クラスを均等に渡り、主にチーム・ティーチング(TT)で子どもを見ます。TTは非常に優れた方式で、授業について行けない子、躓いている子などをさりげなく支援することができます。普通、授業の中で助けてやらなければいけない子は数名しかいません(それ以上の人数がついて行けないような授業は間違っています)。その子たちに辛い思いをさせずに支援できるのは、この方法をおいて他にありません。
 また教室の中で一人の子がパニックに陥ったり跳び出したりした場合、現状では担任がクラスを放り出して対応しなくてはいけませんが、3クラスにひとりとは言え副担任がいれば、その人に教室または当該の児童のどちらかを託して、授業を続ければいいだけなのです。

 3クラスに一人程度の副担任というやりかたは、市町村によってはすでに低学年で実施されています。しかし中高学年だって必要なのです。場合によっては1~2教科を副担任に任せることもできますし、「追加教育」の専属にしてもかまいません。
 さまざまな利用法が考えられますが、それによって担任の業務は大幅に減ることは間違いないはずです。

【予算はかかる。しかしそれでもやらなくてはならない】

 さて、予算に関する何の説明もしない調子のいい話だったら、いま始まったばかりの衆議院議員選挙の立候補者でもできることです。誠実な話をしようとしたらそれにも触れなくてはなりません。

 私の計算によるとこうした「中学校の学級担任専科制」「小学校の副担任制」にかかる費用は、これが案外安いのです・・・とは言えません。
 現在、日本にある公立中学校の学級数はおよそ11万2500、小学校は26万8800ほどです。したがって私の案にそって新たに必要となる教員は中学校で11万2500人、小学校は3学級にひとりですから9万人ほどということになります。
 両方合わせて20万人超。文科省は小学校の35人学級達成のための教員、1万3000人を配置するのに5年もかかると言っていますから、それを考えると20万人超は夢のまた夢です。
 しかしやってもらわなくてはなりません。

 よく知られるように、日本の教育に対する公的支出は先進国の中でも最低レベルなのです()。今のまま教職ブラック状態を続けるとしたら、やがて教員志望者は枯渇し、教師不足によってこの国の教育は成り立たなくなります。
 すでに手遅れなのかもしれませんが、学校はそこまでブラックではないと証明し、ツイッターの「#教師のバトン」で次々と喜びの声が上がるようにしなくてはならないのです。
*(2020.09.14 教育とICT「OECD、2020年版『図表でみる教育』を発行」)によれば、初等教育から高等教育に対する公的支出総額の比率(2017年)、日本は7.8%で、OECD平均の10.8%に比べて低く、最も比率の高いチリ(17.4%)の半分以下だそうです
(この稿、終了)