カイト・カフェ

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「教員と業者の癒着、隠されたリベートはあるのか」~学校に入り込む教育とは関りのない別の意思②

 学校を通して買うしかない制服や運動着、
 修学旅行を始めとする旅行行事の費用の高さ、
 英検・漢検などの独占的に行う試験の受験料、
 教師は陰でけっこう儲けているのかもしれない
と考えている人のための話。
  
(写真:フォトAC)

【平成4年埼玉県業者テスト問題】

 もう30年以上前の話になりますが、埼玉県で「業者テスト問題」と呼ばれる大きな事件がありました。当時の埼玉県では全県の中学校で「北辰テスト」と呼ばれる共通テストが行われ、その成績をもって私立高校の事前協議の材料としたり、隣りの東京都の私立高校受験の基礎資料としたりしていたのです。
 今となると記憶がずいぶんと変わってしまいましたが、当初は半世紀あまりも一社独占で行われてきた民間テストについて、業者と教師・学校または教育委員会の癒着――あからさまに言えば汚職が疑われたのです。そこでマスコミ各社は文化部ではなく、社会部から腕っこきの記者を次々と送り込み、この巨大な社会悪を暴こうとしたのです。
 
 ところが調べても調べても出て来るのは、誠実な教師たちが休日を返上してテスト監督を行い、子どもの進路指導に役立てようとする真面目な態度だけでした、北辰テスト一社独占というのも、継続的にデータを集める上でやむを得ないことだと次第に分かってきたのです。ただ、せっかくの精鋭を送り込んだマスコミとしてはスゴスゴと引き下がるわけにもいかず、たまたま時の総理大臣の鳩山由紀夫氏が「大切な中学生の進路指導を民間に頼るとは何事だ!」みたいな言い方でこぶしを振り上げたため、癒着・汚職問題から入試制度問題へと内容をすり替え、業者テストの代わりに校長会が作成したテストをもって入試資料とすると、そんな決着が図られたのです。
 
 もちろん校長会テストでも県内における順位は出せますから、県内入試については問題は少なかったのですが、東京の私立高校を受験しようという生徒は合否が判断できなくなってしまい、そこで都会への進学を諦める、そんな流れができました。のちに「業者テストを問題化したのは、県内のエリート中学生を東京に撮られたくない埼玉県内の教育関係者(県教委・県議会・私立高校あたり)がリークしたからだ」と噂されたのはそのためです。
 
 ちなみに「平成4年埼玉県業者テスト問題」は今では、
「偏差値のみに基づいて進路先が決定されたり、入学試験の前に確約が行われていたりする」点が問題とされたということになっています*1。しかしそれはとんでもないご都合主義で、こうした記憶の改変によって「高校との入試前相談がいけないのならそれさえしなければいい」といいうことになり、北辰テストは今や「埼玉県の中学3年生の9割が受けている」*2(高校入試に不可欠な)テストとして事実上復活しています。必要なもの、便利なものは亡くならないのです。*3
*1:平成29年6月定例会 一般質問 質疑質問・答弁など
*2:北辰テスト -北辰テストと埼玉の高校・入試情報-
*3
:この流れで「紙の教科書やファックスをなくそうとする文科省 v.s 学校現場」という話につなげようとしたのですが、時間がなくなりました。

【教員と業者の癒着、隠されたリベート】

 この話を思い出したのは、児童生徒を挟んだ教員と業者の癒着、隠されたリベートといった話題が、いつの時代も尽きないからです。
 例えば漢字検定英語検定――児童生徒あるいは保護者からお金を集めて休日に行うこれらのテストについて、そこから学校や教師に巨大なリベートが送られていると疑う人も少なくありません。
 児童生徒の使うドリル帳や問題集、副教材のほとんどが地元の教材屋から購入している事実から、そこにも特殊なマージンの可能性を考える人もいます。
 もっとも疑われるのは制服や運動着・上履きといった通学に不可欠な衣料品が、学校を通して地元の衣料品店から買うしかない仕組みになっていることです。かつては全国一律の詰襟の学生服やセーラー服が主流だったのに、今は学校ごと異なったブレザー型などになっている。さらに昨今のジェンダーレス制服を見ると、もうネットで制服を探すという時代ではなくなって、ますます学校を通して地元の業者から買うしかなくなっている、しかも競争入札を行った形跡もない。そうした堅牢な仕組みは、いったいなんのためにあるのか――そう考えると業者・学校間の怪しい関係は当然疑わしくなってきます。
 
 ただし「より良いものをより安く」という資本主義経済の原則に反した消費行動を強いられているのは、教員も同じなのです。代表的なところでは毎年何百締も購入するA4用紙。ネット通販はもちろん近隣のホームセンターでもかなり安く購入できるものに、わざわざ地元の文具店や教材店を使って定価に近い価格で買う*4。体育科の使うボールなどの備品もなぜか地元のスポーツ用品店を通さなければいけない。
 体育館の天井の水銀灯(またはメタルハライドランプ)、交換しようとしたら1本いくらすると思います? 18,000円もするのです。それがネットだと12,000円くらいで買えることがあります。それを地元の電気屋さんから500円引きの17,500円で買わされたりする。3本交換できるところを、2本しかできない、そんなバカなことがありますか?
*4:紙や一部の商品では、教委が一括購入するなど、他の対応が取られるようになってきている。

【地域の経済原理が学校を動かしている】

 実は、これは地域の商店や同業者組合、商工会などが市町村長や議会議員を動かして教育委員会に圧力をかけているからなのです。
 人々は有権者として首長や議員にこんなふうに圧力をかけます。
「オレたちの利益を代表しないなら、二度と選挙協力も投票もしない」
 サルは木から落ちてもサルですが、首長や議員は選挙で落ちたらただの人です。どんな高邁な理想を持っていても政治家でなければ実現できないこともあります。したがって有権者の願いにはできるだけ寄り添おうとします。

「地元の店を使わなければ予算を減らすぞ」でも、「地域の商店を使うなら予算を増やそう」でもいいのですが陰に陽に圧力をかけ、首長や議員は地域の企業・商店の利益を守ろうとします。もちろんそうした圧力を跳ね返す力は教委にはありません。予算の編成権は首長や議員が握っているのです。へたにへそを曲げられ予算を削られたのでは、教委も何もできなくなります。

 しかしそうした圧力が不当かといえばそうでもありません。政治とはそもそもそういうものだからです。地元の企業・商店を保護するために高い商品を買わされることが面白くないなら、企業や組織票に依拠しない、純粋に保護者のために働いていてくれる議員をより多く議会に送り込むしかありません。
 
 さらにまた、彼らはこんな言い方もします。
「市町村立の小中学校は市町村民の支払った税金によって運営されている。その税金が地元に還元されず、都会の大手ネット通販などに流れるとしたら地域はどうやって学校を支え続けることができるのだ? 地元の商店や企業が次々と消えて自治体自体が衰退したら、学校の存続自体が危うくなる」
 こうした論理にはかなりの妥当性があります。その妥当性を越えて、より安価な商品を購入することこそ地域及び学校、ひいては子どもたちの利益になると証明できなければ、結局、地域の論理に従うしかありません。
 もっとも、
「少々高い商品を買わされても、地域経済と地域を守って行きたい」
 そんなふうに前向きに考えられるとそれで済んでしまう話です。それがなかなか難しいことなのかもしれません。

【教師は保護者のために戦わない】

 教師にとって制服の斡旋は本業ではありません。教委や首長・議員と戦ってまで保護者の利益を優先し、地元の商店を潰すことに力を貸す気にもなりません。競合する業者を数社探し出して競争入札にかけるというのも、年間を通して常に忙しい身では現実的ではないでしょう。
 かくして前年度踏襲を続けて来て、痛くもない腹を探られているのです。
 誤解されても、もう戦う余力がないというのが事実です。