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「素っ気ないノートはいかにしてつくられたか」①〜岩手いじめ自殺事件の違和感 Ⅱ

「ボクがいつ消えるかはわかりません」に対して「明日からの研修たのしみましょうね」、「なぐられたり、けられたり、首しめられたり」に対して「それは大変、いつ?? 解決したの?」、こうした素っ気ないトボけた生活記録ノートはいかにしてつくられたか――よく考えるとその様子が分かってきます。私もかつては担任として生活記録ノートの一方の書き手でしたが、自分でも同じことを犯しかねない状況があるのです。

 担任教師はいつ生活記録ノートを開き返事を書いているのか、これについて疑問に思う人はあまりいません。今回の事件に際してその点に注目した記事はなかったと思います。しかし担任教師は毎日、実にきわどい状況でこれに対応しているのです。
 普通、中学校の教員は週に25時間程度の授業を担当しています。例えば社会科の場合、ひとりで最大6クラスの授業を受け持ちますから週3時間の1・2年生を4クラス、週4時間の3年生を2クラス受け持つと社会科だけで週20時間となります。それ以外に学級担任のクラスの週1時間の道徳、特別活動、週2時間程度の「総合的な学習の時間」、それらをすべて合わせると週24時間となります。
*指導要領は1年生の「総合的な学習の時間」として年間50時間、2・3年生は年間70時間を指示しています。学校は35週間の登校を基本としていますので、1年生は週1〜2時間、2・3年生は週2時間の授業となります。

 生徒が一週間に受ける総授業時数は29時間です。月曜日から金曜日まで毎日6時間の授業が入れられますが、職員会議の行われる水曜日だけは5時間授業なので全部で29時間になるのです。先ほどの例だと教師はそのうち24時間を授業に使っていますから残りは5時間。つまりほぼ毎日1時間、授業を持たない時間が生まれるのです。それが「空き時間」。ここで「生活記録ノート」を見て返事を書くことになるのです。
 もっとも全学年1クラスしかない小規模の学校だと社会科の授業は全部で週10時間、道徳などを合わせても14時間の授業しかありません。そうなると毎日3時間もの空きができて楽そうに見えますが、良くしたもので小規模校の先生方は校務に忙しく、空き時間は思ったほど生まれません。というのはひとつの学校で分掌される生徒指導係だとか清掃係とかは1校あたり40〜50ほど、これは学校に規模によりません。ですから職員が50名もいるような大規模校では「一人一主任」といった形になるのに対して、職員数が7名といった学校では一人で7つもの「主任」を背負っていたりするので大変です。

 さて空き時間が毎日1時間しかない場合、学級担任はその50分間にすべての「生活記録ノート」を見て返事を書きます。1クラス35人だとすると、平均1.4分しかひとりに費やせません。空き時間が2時間あっても3分です。その間に読み、判断し、返答します。
 さて、あなたは中学校の学級担任です。「生活記録ノート」を10数冊読んだところでとんでもない記述に出会います。
「ボクはほんとうにイヤになった。死のうと思います」
 そのとき学級担任としてどんな返事をするのか。それが今回、問題となっている担任教師が突きつけられたテーマです。
(この稿、続く)