かつては「虫歯予防週間」とか言ったものがいつの間にか「歯の衛生週間」になり、そして今は「歯と口の衛生週間」です。しっかり意識に留めておかなければ混乱します。ただしこのネーミング、悪いものではありません。
高校時代からの友人に虫歯が一本もないという男がいました。歯磨きもしないのに歯が全く弱らないのです。
私の方は小学生のころからの歯医者通いが収まらず、虫歯だらけで他人には見せられないひどさです。ですから彼が本当に羨ましかった・・・。
ところが50歳が近づいたころから、まず彼の方が歯を失い始めました・・・しかもきれいな歯のまま、どんどん抜けて行ってしまうのです。歯周病(歯槽膿漏)というやつです。
原理はこうです。
まず食事のあとに歯磨きをしないと歯の付け根に食べかすが溜まります。それが口の中の雑菌(口腔常在菌)の仮の棲家となります。
口腔常在菌は自らの排せつ物によって歯垢をつくり、これが常在菌の発信基地となります。
雑菌の一部は口の中で糖質を酸に変え、歯を溶かし始めます。これが虫歯です。 一方、別の一部は歯と歯茎の隙間を奥へ奥へと進むことになります。口腔常在菌多くは嫌気菌で空気を嫌うのです。できるだけ空気に触れないよう、奥へと進みたがるのです。これが歯を支える“歯槽骨”の脅威になります。
骨の中に雑菌が入り、骨髄が炎症を起こせば死に直結します。そこで歯槽骨は独特のやり方で口腔常在菌から身を守ります。それは自らを溶かしながら、少しでも菌から遠ざかろうとするというやり方です。
「ノートルダムのせむし男」などでは独特の「歯の長い男」が出てきます。また、中年以上の人が「最近、歯が伸びてきた」といった言い方をすることもあります。しかしこれは歯が伸びたのではなく、歯茎が沈んで本来は中に隠れていた部分が、外に見え始めたということなのです。そしてそれが限界に達すると、歯は健康なまま、ポロっと抜け落ちます。これが歯周病の最後の姿です。
私の「決して虫歯にならない友人」は、結局、歯周病によってすべての歯を失い、入れ歯も調節できずに結局インプラントで対応しましました。その費用、総額500万円だそうです。
子どものころから虫歯に苦しんできた私は、それでも彼よりましです。
幸いなことに歯磨きは習慣です。いったん習慣として定着すれば、気持ち悪くてやらずに済ませることはできません。本来は家庭教育の範囲ですが、家庭に力がなければ、私たちがやるしかありません。
※クマやタヌキはなぜ歯周病にならないのか――それはこれらの動物が繊維質の食物を大量に食べており、自然と歯磨きやブラッシングをしているからです。
したがってどうしても歯磨きが嫌だという子は、食後、外に連れ出してそこで庭の草を大量に食ませればいいのです。
「さあみんな! 食後の運動と草を食む時間だ。頑張ろう! イェーイ!」