カイト・カフェ

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「人間に対しては感じられない『心』の存在を、子どもはロボットに感じることができる」~アンドロイドに子育て代行の夢を見るのか①

 5歳の子どもたちはAIロボットに「心」を感じ、
 その目を意識して正しい行いをするようになるという。
 人間相手の場合は奔放で傍若無人
 テレビカメラを向けられも意識もしないというのに。
という話。(写真:フォトAC)

【AIロボットに心を感じる】

 一昨日のYahooニュースに『5歳児、AIロボットを「心を持った存在」と認識 面前で「いい子」の態度 NTT実験』という記事が出ていました。元は産経新聞の記事です*1

 内容は、
『NTTは13日、5歳児が人工知能(AI)などを搭載し、発話や身振りを交えた柔軟なやり取りができるロボットと交流すると、ロボットが見ている前では他人のための行動をとる「いい子」として振る舞うという実験結果を発表した。子供はロボットを心を持った存在と認識しており、幼児教育などでの活用につなげる考えだ』
というものです。
 ただし、内容に踏み込む前に、見出し(タイトル)だけでもツッコミどころ満載の、大変な記事です。というのは通常5歳児は、人間に対してですら「心を持った存在」と認識するのは困難だと考えられているからなのです。

【チコちゃんはなぜ5歳なのか】

 NHKチコちゃんに叱られる!」のチコちゃんは「永遠の5歳」がウリです。なぜ5歳の設定なのかというと、その年齢特有の率直さと旺盛な好奇心で、大人に向かってもずけずけとものを言い、聞きにくい質問も平気で投げかける遠慮のなさが、番組のMCとして面白いと考えられたからです。

 3~4歳では言葉もたどたどしく、7歳8歳では智恵がつき過ぎている。それに比べると5歳は口が達者で知恵は浅い。相手が大人であろうとなかろうと、あるいは地位が高かろうが低かろうが、まったく気にしません。こんなことを言ったら怒るかもしれないといった恐怖心もありませんから、名前も呼び捨てか「ちゃん」呼ばわり。その上あんなに大胆にものが言えるのです。5歳だからできることで、ちょっと年齢が上がるだけでもできることではありません。
 考えてもみてください。小学校の高学年や中学生からクイズを出され、答えられずにいたら、
「ボーっと生きてんじゃねーよ!」
 これ、絶対に穏やかではいられませんよね。けれど5歳なら許される、5歳児はそういうものだと皆が知っているからです。

【心の理論と5歳児】

 5歳児は人の心を理解しないということは、心理学の「心の理論」からも説明できます。
 「心の理論」は20世紀も後半に入るころ、「動物にも『心』はあるか」という問題が改めて話題になった時、ある哲学者がこんなふうに言ったことに端を発しています。
「サルにも心はあるのかもしれない。ただしサルが罠を仕掛けるのを見たら、私は初めてサルにも心があると認めるだろう」
 罠というのは「相手には相手なりの認識や判断があり、それを理解した上で“裏をかく”しかけ」のことです。相手の気持ちが分からなくては仕掛けられません。
 そこから「“心”とは他人の考えや感情、意図、信念を理解したり、それを推測したりする能力のこと」だという考えが広まります。こうした「心」の定義を「心の理論」と言い、現在のところ「心とはなにか」という問いに最もうまく対応できる回答だと考えられています。

 心の理論の研究は1970年~1980年ごろに大きく発展します。中でも大きな成果のひとつは、『0歳から3歳までの子どもはほとんどが「心の理論」を獲得しておらず、4歳から6歳までの間に徐々に獲得されるようになる』というものです。4歳未満の子には、他人に別の思惑があることが理解できないのです。5歳はそのギリギリの年齢。チコちゃんはまだ十分に獲得ができていないのです。

【はじめてのおつかい:カメラを向けても気づかない】

 この5歳の微妙さは、正月恒例の特番「はじめておつかい」でも証明されています。あの番組を見ていて不思議なのは、どう考えて奇妙な大人たちが周辺をうろつき、カメラみたいなものが何台も構えているのに、子どもたちが何も反応しないことです。「見ないふりをしてください」などといった「お願い」の通用する年齢ではありません。
 スタッフはこんなふうに証言します。
「5歳3か月までは大丈夫。(中略)5歳3か月を越えた子をカメラマンが追うと、『まだ来る! 泥棒だ!!』とか言いながら、鬼ごっこになっちゃう。でも、5歳3か月未満の子だとカメラの存在に気づいてるんだけど、自分が撮られていると思わないようです。普通だったら、『何のカメラ?』って追及するけどそれがない」(2013年のwebザテレビジョンのインタビューより)
 ついてくる大人たちや、こちらに向けられたカメラの持ち主の思惑が、まるで理解できないのです。
 「はじめてのおつかい」と「心の理論」については10年ほど前に詳しく書いたので興味があったら読んでみてください。*2 *3

【人間には感じられない心の存在をロボットに感じる】

 さて、そうした5歳児の特殊性を頭に入れ直して産経新聞の記事の見出しを読み直すと、とんでもないことが起こっている気がしてきます。
『5歳児、AIロボットを「心を持った存在」と認識 面前で「いい子」の態度 NTT実験』
 心の理論が未発達で、まだ十分に他人を意識できない5歳児、テレビカメラがこちらに向いていても一向に気にしない5歳児、その同じ5歳児がAIロボットには「心」の存在を認識し、その目を意識していい子を演じることができるのです。ありえますか?

 さらに驚くのは記事が転載されたYahooニュースのコメント欄に記された言葉の中に、けっこう好意的なものも多かったことです。

「これは新たな可能性だと思いました。
 歪んだ親による教育で歪んだ子供が育成されてる今、それを抑止する可能性が見出された気がします。今後、注目して行きたいと思いました」

「将来的には、子どもの話し相手になったり、一緒に遊んだり、そっと寄り添ってくれたり――さらに安全にも配慮してくれる、ドラえもんのような『キッズパートナーロボット』が一般的になるのかもしれない。
特に『安全の配慮』ができるようになれば、子育て世代の負担はかなり軽くなるはず」
(この稿、続く)