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「黒船来たる:令和2年の敗戦」~ダイヤモンド・プリンセスと人々の生き方①

 テレビで久々に「ダイヤモンド・プリンセス」を見た。
 4年前、船内で新型コロナの大規模な集団感染を起こした船だ。
 あの船の帰港とともに、時代は変わり、
 世界のあり方も変わったのかもしれない。
という話。(写真:フォトAC)

【黒船来たる:令和2年の敗戦】

 先週金曜日のNHK「新プロジェクトX~挑戦者たち~」はサブタイトルが「クルーズ船 集団感染~災害派遣医療チーム 葛藤の記録~」という、2020年2月3日横浜港に戻って来たクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」船内における、14日間に渡る新型コロナウィルスとの戦いを描いた物語でした。

 わずか4年前のできごとですから記憶に新しいことですが、この日、横浜港に入港してきたダイヤモンド・プリンセスの姿を、私は今もありありと思い浮かべることができます。おなじ映像を人々はどう見たか分かりませんが、私はある種の興奮をもって見ていたからです。
 自分自身は何もしないくせに、ダイヤモンド・プリンスという令和の黒船に対して、日本の政府や医療、自衛隊、そうした一切を支える国内システムすべてが一丸となって戦いを挑み、170年前には果たせなかった攘夷(夷狄〈イテキ〉を打ち払う)の夢を実現するのだと、そのくらいの勢いで思っていたのです。
 
 何しろ今回は船の中に大量の日本人がいる。日本人である以上この人たちは、秩序正しく辛抱強く、公共のために進んで辛苦を引き受けてくれる人たちだ。そうした乗客乗員の協力を得れば、船内の感染は容易に収まり、ウィルスの国内への侵入もかならず防げるだろう、日本は中国にはならない、日本はそうした優れた国で、日本人はそうした民族なのだ、と始まる前から勝ち誇っているような気分でした(いま書きながら思ったのですが、これって幕末の尊王攘夷派のひとびとと全く同じですよね)。いわゆる“水際作戦”がまだ有効だと信じていた時期のことです。

 しかしニュースを見ていると感染はいっこうに収まる様子はなく、毎日2ケタの要請患者が報告され、そのうちに医療チームの中からも感染者が出て、沈静化の道筋が見えなくなってきます。さらにその間に陸上では東京で、横浜で、和歌山で、千葉でと、次々と経路不明の患者が現れ、ダイヤモンド・プリンセスに対する関心も急速に収まっていった、その感じも覚えています。

 隔離期間が終わって2月19日に乗客の下船が始まった日、私はドラッグストアにマスクを買いに行き、その時に買ったひと箱が、その年(2020年)に箱買いできた最後のものとなりました。
 誰の目にも水際作戦は失敗でした。いまとなればパンデミックを水際で完全に抑えることなどとうてい無理だと分かりますが、無理ではあるものの、私たちが頑張ったことは無意味ではなかった私は思っています。感染拡大を少しでも先延ばしにしたことが、結局はほかの国々で得られた知見を日本国内で生かすことができ、極端な死亡率の低下につなげることができたのですから。

【年号が変われば時代が変わる】

 いわゆる「コロナ禍」がいつ始まったのかの手掛かりになるのが、パンデミックを起こした新型コロナ・ウイルスの正式名称COVID19*1です。ようするに2019年ということです。ただし中国の武漢で最初の患者が発見されたのが、2019年12月1日。その後患者が増え続けてWHOに報告されたのが12月31日ですから、実質的なパンデミックは2020年に始まったと考えてよさそうです。そしてその2020年は、日本では令和2年なのです。

 日本の改元や西暦の更新が歴史に影響を与えるということは、科学的に考えればありえないのですが、それらが人々の心にわずかな変化をもたらし、そのわずかな変化が何千万人分、何億人分も重なって歴史を動かしてしまう、そういうことがあるのではないかと本気で思ったりすることがあります。

 西暦の方は100年ごとの変化ですのでなかなか意識しにくいのですが、21世紀の始まった2001年はアメリ同時多発テロの年で、この年の9月11日から冷戦取穴以来、1強となっていたアメリカの凋落がはじまります。
 ちなみに20世紀の始まった1901年に何があったか調べてみると、1月22日にビクトリア女王崩御されているのです。世界各地を植民地化・半植民地化して繁栄を極めた大英帝国を象徴する女王として知られ、その治世は「ビクトリア朝」と呼ばれました。ですからその女王の死は、大英帝国の終わりのはじまりを象徴する出来事だったと言ってもいいでしょう。
 アメリ同時多発テロビクトリア女王崩御は、新しい世紀の最初の年をわざわざ選んで行ったのではないはずですが、“新世紀はこういう時代だ”と印象付けるには力があったのでしょう。”世紀も変わったのだから、時代も大きく変わるだろう”と、人々に確信を与える出来事だったのかもしれないということです。
 
 日本の元号はさらに強い力を持っているらしく、とりあえず「元年」は前の時代を引きずっているので変化が少ないのですが、2年目に大きな出来事が生まれやすくなっています。
 明治2年版籍奉還が始まって江戸時代のお殿様が一斉にクビになり、時代の風景が江戸から明治に一気に変わってしまいます。
 大正2年第一次護憲運動の年で大正デモクラシーはまさにその年から始まったのですが、そのわずか15年後の昭和2年、金融恐慌が起こって時代は一気に昭和前期の薄暗く重苦しいものへと変わって行きます。
 平成2年が何の年か覚えていますか? バブル崩壊です。華やかな昭和後期が終わり、一瞬にして平成の基調を生み出されます。

 そして令和2年。コロナ禍に始まった令和の御世が、歴史的にどういう位置づけとなるか、もう少し様子を見ていきましょう。
(この稿、続く)

*1:COVID19は“COronaVirus Infectious Disease, emerged in 2019(2019年に発生したコロナウイルス感染症)”に由来する正式名称で、略称ではないそうです。