カイト・カフェ

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「老人には特殊、若者には誰もが知っている一般的な情報がなくてはならない」~教え子をアホな受け子や強盗にしない方法③

 特殊詐欺のこちら側には、なぜかやたらと騙される高齢者たちがいて、
 あちら側には《受け子》にリクルートされて捕まる若者が絶えない。
 高齢者はテレビ、若者にはスマホと、それぞれにふさわしい道具があるのに、
 なぜ両者、ああも簡単に騙されてしまうのだ?
 という話。(写真:フォトAC)

【高齢者と若者、それぞれ得意な分野でホゾを噛む】

 特殊詐欺というのは本当に不思議な世界で、詐欺のこちら側ではあれほどテレビや新聞が騒いでも被害者となる高齢者があとを絶たず、あちら側では叩いても叩いても「モグラたたき」のように危険な仕事を平気で請け負う「受け子」たちが繰り返し現れてきます。
 しかも考えてみると、前者高齢者たちはテレビや新聞といった特殊詐欺撲滅を訴える旧来のメディアに親和性の高い人々で、後者若者たちはスマホを使って「高給バイト」を検索し、言われるままに秘匿性の高いSNSをダウンロードしてすぐに使えるようになる、私たちと比較すれば圧倒的なICT強者です。
 それなのになぜこの人たちは、自分たちにとってもっとも重要な情報にたどり着かないのか?
 これは見方によれば一般性の高いテレビ・新聞といったマスメディアと、個に対応できるネットメディアとの違いによるものだと考えることができます。

【老人にはその人に向けたメッセージが必要だ】

 テレビや新聞が特殊詐欺の危険について語るとき、それを我がこととして捉える人はどの程度いるのでしょう? 我がこととして捉えるというのは具体的に言えば、ニュースを見聞きするたびに、「還付金が受け取れるという電話がかかってきたら、どう答えようか」とか「オレオレといわれたら息子の名前じゃなくて、死んだ兄貴の名前を言ってみようか」とか、あれこれ対応策を考えてみることです。予め家族と話し合って暗号や符丁を決めておくのもいいでしょう。そういったことをどの程度の人がやっているのか――。

 私は半分よりはるかに多くの人々がそういったことをしていると思っていますが、仮に60%の人がやっているとしても残りは4割。単純な計算で4800万人もが《ただ聞いている》ということになります。老人だけに絞っても1000万人は下らないでしょう。そう考えると。特殊詐欺の餌食になる人が絶えないこともよく理解できます。


「下手な鉄砲も数、撃ちゃ当たる」
 辛抱強く電話をかければ、いつかは特殊詐欺を他人事にしか考えていない人に当たります。
 高齢者に必要なのは「その人に向けてのメッセージ」なのです。いくらテレビや新聞で訴えても、それが私の情報(自分のところに電話がかかってきたらどう対処するか)にならない限り、いつまでも騙される人はなくなりません。その意味で、警察による戸別訪問などは有効ではないかと私は思っています。

【若者には誰もが知っているべき一般的な情報がなくてはならない】

 一方で、ネットメディアに偏りがちな若者の手に届かいないのは「一般的なメッセージ」です。ネットは「私の問い」にはすぐに答えてくれます。私が必要とする情報は、たいていいつでも見つかります。
 しかし「当面私には必要ない」あるいは「必要性を理解していない」情報、つまり一般的で、万民に対して発せられた情報については、まったく届いてきません。本人が必要だと言わないからです。

 大昔ですが、高校を中退してしまった教え子が、あとで後悔して言うには、
「中退を考えているととき、《中退してはダメだよ》という情報は一切届いてこなかった。高校を中退すれば《あんないいいことがある》《こんないいことがある》と、そんな話ばかりだった。それが中退してみたら、損なことばかりじゃないか――」
 ネットのなかった時代ですらこうですから、ネット時代はなおさらです。しかも集まる情報の数が違う。

 かくして「短時間の簡単な労働で、驚くほど儲かる仕事がある」という情報は、「しかし危険すぎて、決して普通の人間が手を出していいものではない」という部分を置き去りにして、あっという間に広がり、ネット検索する若者を後押しします。
 彼らに必要な情報は、本当は彼らが望んでいないところにあるのです。ではどうやったら彼らの手元に必要な情報を届けることができるのか――。
 実は、これが大問題なのです。

(この稿、続く)