将来に向けて今から準備することは大事だ。
しかし何もかも経験しておけばいいというものではない。
酒だってタバコだって、ゲームだってファッションだって、
早く始めればいいというものではないだろう。
という話。(写真:フォトAC)
【子どもに酒の飲み方を教えることは大切だ】
あまりにも衝撃的な発言だったので前後の記憶がすべて吹っ飛んでしまっているのですが、昔、小学校のPTA学習会でこんな発言をした母親がいました。
「子どものころに何もかも禁止するというのはいかがでしょう? 大人になって急に現実に直面し、戸惑ったり間違った行動を起こしたりしないように、小さなころから次第に慣らしていくことが大事ではないでしょうか。例えば最近、大学の歓迎コンパでお酒を飲みすぎて急性アルコールで亡くなってしまったというようなことがありましたが、そうならないために私の家では今から少しずつ、お酒に慣れさせるようにしています」
もちろんそれに続いて賛同する発言する人はいませんでした。
この母親の過ちは二つです。
ひとつは、「歓迎コンパで死なせないために」は、現在の子どもの健康を犠牲にし、法律違反まで犯して追及すべきことなのかという点です。歓迎コンパでの急性アルコール中毒死などめったに起こることではありませんし、予防するにしても大学生になってから口で言えばいいことです。心配性の親なら事故の新聞記事を取っておいて、時期が来たら実際のできごととして見せればいいのです。
二つ目は、小学生の内から酒を飲ませているという告白が、非難はあるにしても、多少の賛同や感心を集めると踏んだ点です。どうしてそんな判断をしてしまったのか。もしかしたら発言の前半部分で興奮して、口を滑らせただけなのかもしれません。
【将来に備えて今から準備する、その必要がないものもある】
「将来に備えて今から準備する」という話になると、私の頭には「勉強」だとか「努力」だとか、あるいは「教養」だとか「スポーツ」だとか「芸術」とかいった内容しか浮かびません。古い考えだというのは重々承知していますが、「遊び」だとか「娯楽」だと、ましてや飲酒など絶対に入って来ないのです。
言うまでもなく、学びと遊びの間に明確な分かれ目があるわけではありません。
野球やサッカーは「スポーツ」と「娯楽」の両方に足を突っ込んでいますし、「お絵描き」と「芸術」間には一定のつながりがあります。したがって要は程度の問題なのかもしれませんが、一方への寄り具合によっては、子どもの成長に寄与する場合もあれば、阻害する場合もあります。安易に考えたり、安易に他人の意見に同調したりしてものではないでしょう。
先ほどの飲酒の訓練ではありませんが、子どもの時期に経験しなくてもいいこと、してはいけないことはたくさんあるのです。
【子どものころからやっておけば、将来ハマることはない?】
病気やけがはもちろんですが、子どものころから経験する必要のないものとして、私は例えばゲームやスマホ・ファッションなどを挙げておきます。ビンテージを越えてアンティークのような考えで、炎上どころか誰にも相手にされない意見だと思うのですが、他に言う人がいないようなので私が言っておきます。
理由は簡単で、「今」やる必要がないからです。どちらも大人になれば自然に身につくもので、小中学生くらいまでは他にしなければならないことが山ほどありますから、それに専念してほしいのです。また、これも笑われるでしょうが「百害あって一利なし」だからです。
そんなことを言うと、「クラスで友だちの会話について行けない」とか「大人になって共通の思い出がない」とか、あるいは「子どものうちにやっておかないと免疫がつかないから、大人になって大きな反動がある」などとおっしゃる人がいますが、大学に入ってからハマって1~2年留年することと、中高時代にハマってたくさんの思い出づくりをした代わりに希望の大学へ行けないのと、どちらが幸せかといえば五分五分でしょう。
そもそも反動でゲームやスマホやファッションに耽溺するような子は、幼少期から親和性が高かったのです。早くから始めれば大人になってやめるというものでもないでしょう。だったら遅く始める方が人生全体ではよほど有利です。
またそんな子どもたちとは逆に、ゲームもスマホもファッションもあまり気にならない、なくてもいい、そこそこでいいという子もたくさんいるのです。
(この稿、続く)