「大国には義務がある」〜戦場ジャーナリストと日本式謝罪の話1

f:id:kite-cafe:20181201111437j:plain(ピーテル・パウルルーベンス 「戦争の惨禍」)

 先週の朝日新聞『安田さんおわび、外国特派員は「謝罪の必要あるのか?」』という記事がありました。
 安田純平さんに関しては解放以来ネット上に厳しい自己責任論があったようで、テレビでも何回も扱われていました。

 それに対して、
 国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)は6日、「紛争下にある国々の現場にジャーナリストがいなくては、世論は偏った情報に頼らなくてはいけなくなる」とし、「(安田さんが)謝罪を強いられたことは受け入れがたい」とするコメントを出した
という事情があり、今回の特派員協会での会見が特に注目されたのです。

 会見の中で安田さんは、
「私の行動にミスがあったのは間違いないのでおわびを申し上げた」
と簡単に説明したようです。深入りするとのっぴきならないところまで引きずり込まれかねないテーマですので、誰もが納得できるところで簡単にかわした、というのが実情かもしれません。

【何のリスクも負わなくていいのか】

 自己責任論についてはよく分かりませんし、よく分からないまま深入りするのも危険ですので私もこれについて話さず来ました。しかし非常に単純な気持ちとして、次のような思いもあります。
 それは安田さんのようなジャーナリストが危険を冒して飛び込んでいかなければ、日本人としてちょっと恥ずかしいというようなことです。

 戦後70有余年、戦場で(殺されることはあっても)一人の人間も殺さず来たのは日本だけです。
 そこにはもちろん、憲法上の制約があって本格的な紛争地帯に自衛隊などの公務員を派遣できなかったという事情もあります。しかしそれでも「だれ一人殺さなかった」ということは名誉なことですし歴史の手本となるべきことですから今後も続けていくべきですが、さらにそのうえ、ジャーナリストも危険を冒さず、金を払ってニュースを買うだけとなると、素直でいるのは難しくなります。

【あの人の声】

 私は2012年にシリアのアレッポで殺害された戦場カメラマン、山本美香さんが撮影した動画に、特別な思いがあります。それは戦場の女性や子どもを次々と映す中で、一人の赤ん坊にかけた山本さんの、「わあ可愛い」という一言です(下の映像では17:50付近)。その声は女性だから出てきた声、女性にしか出せない声だと思ったのです。

  そこに女性カメラマンが戦場に行く意味があります。女性にしか切り取れない映像、女性だからこそ強く訴えられる事実があるのです。

 同様に、日本人だからできる、日本人にしかできない戦争報道というのがやはりあります。
 シリアについて言えば、この国は私たちにとってほとんど無関係な国、無関心でいられる国です。戦争のために失われる権益もなければ、嫌な言い方ですが長引いて日本製の武器が売れて儲かるといったこともありません。海を渡って大量の難民が押し寄せるといったことも起こりません。
 あるいは多くの自衛隊員が送り込まれていて、何人も殺されたり負傷されたりしているといった状況があれば、それはそれで公平な報道はできません。同胞が殺される土地で、政治的平衡を持ち続けるのはやはり困難だからです。
 つまり徹底的に無関係である日本こそ、もっとも“中立”に近い戦争報道ができるのです。その目で見られる特別な世界があります。


【政府が責任を負うべきだろう】

 私はまた、ジャーナリストは記事を売り、講演をすることで稼いでいるのだから万が一の場合も政府が動く必要はない、ましてや国民の税金を使って救い出す必要はないといった「自己責任論」にも与しません。

 なぜなら日本が大国だからです。国際社会の準主役として、それなりに諸外国に影響力をもつ国だからです。そういう国は国際平和のために働く義務があります。もちろん軍隊を送ることで義務を果たそうという国もありますし、わが国が行っているような貧困の除去、地道な支援活動によって紛争を根から枯らそうという試みもあります。しかしそれだけでは不十分でしょう。

 先に紹介したYoutube動画で、山本美香さんはこんなふうに語っておられます。
「伝える人がいないと、どんどん状況って悪化していくんですよね。
 ですから、少しでも、伝えることによって戦争が早く終わるかもしれないし、あるいはもっと拡大することを防ぐことができるかもしれない、やはり伝え続けるために取材をしたいな(と思います)」(4:55ごろ)
「外国人ジャーナリストがいることで、最悪の事態を防ぐことができる」(16:32ごろ)

 もちろん政府が積極的にジャーナリストを戦場に送り出すことはできません。それどころか外務省は、海外安全情報を出して退避勧告渡航中止を呼び掛けたりしているくらいです。

 しかし誰かが戦場の真の姿を世界に知らせ、何らかの歯止めをしようとしなければならないとしたら、多少とも世界に影響力のある国、いざという時に自国民を救い出す政治力のある大国が、ジャーナリストを送り出すしかないのです。その意味で、政府には捕らえられた自国ジャーナリストを救う義務があります。

 大国としての日本が世界に対して負う義務です。だから政府も安田さんに関して粛々と対応したのだと思います。たとえその人が安倍政権を激しく罵るような人であっても。

 さて、ほんとうは安田さんの特派員協会における会見を通して日本的謝罪について考えるつもりでしたが、時間がなくなりました。続きは明日お話しします。

(この稿、続く)