「男性にもまれ」

 

 妻が「リセット・ポール」という健康用具を購入しました。直径20�p、長さ1m20�pほどの円筒で、この上に横たわって背骨を伸ばしながら軽く運動をするというものです。なかなか気持ちのよいもので、気分よく運動しながらあちこちの筋肉を揉みほぐしていたら……。

 左胸の脇に近いあたりに何やらシコリがあるのです。それもかなり大きさで長さ6�p、直径3�pほどの紡錘形といった感じでグリグリしています。昔、左右の胸筋のバランスが悪いなと思ったことがありますから、そのころからのものかもしれませし、もしかしたら最近急に大きくなったものかもしれません。

 筋肉のつき具合(というか衰え具合)をみるために胸を張って触ることはあっても、柔らかい状態で触れるということは一度もなかったのです。

 乳がんのうち1%は男性の発症です。私はそのことを知っていました。本気で心配するような数字ではありませんが年齢も年齢です、やはり見てもらった方がいいかな――そう思ったのが月曜日。

 今の同僚に「マンモグラフィーやるのかな?」「挟むオッパイないだろう、相撲取りじゃあるまいし」などとからかわれながら火曜日に医者に行き、超音波の予約を入れて、その検査が昨日でした。結果はシロ。大きな脂肪の固まりだろうということでそのまま放置です。やれやれ。

 ところで「乳がんのうち1%は男性」を知っていたことには理由があります。

 国語の世界に「なぎなた読み」(または「ぎなた読み」)というのがあります。これは「弁慶が、なぎなたを持って」を「弁慶がナ、ぎなたを持って」と読み違えることで、有名なものでは銭湯の入口に書いてあった「ここではきもの(履物)をぬいでください」を「ここでは着物を脱いでください」と読み違えて裸になってしまったというのがあります。ネットで調べると「風呂に入るか入らないか?」「風呂にはイルカは要らないか?」とか「今日中に、食べましょう」「教授、ウニ食べましょう」とかいくらでも出てくるのですが、私が特に気に入っているのは次の文です。

乳がんは男性にも稀ながら発見されます」

乳がんは男性に揉まれながら発見されます」

 これに出会ったとき、本当に男性にも乳がんはあるのかと調べて、先の「乳がんのうち1%は男性」を知ったのです。

 この話は、私が抱えるトリビアの中でも最も気に入っているものですが、学校で披露したことはありません。もちろん「デイ・バイ・デイ」に書いて証拠に残すこともできませんでした。セクハラ疑惑が濃厚すぎますから。

 今は口にすることも文章にすることもできます。セクハラで訴えられても新聞に載ることはありません。

 あのころはそうは思いませんでしたが、今思うと本当に窮屈な世界にいたものです。