表現力のある子を育てたいというとき、私たちはどんな理想像、到達点を思い浮かべているのでしょう。
ごく一般的な意味で「表現力のある人」というのは、たぶん自分の思いや考えを適切な言葉で表し、相手に十全に伝える能力をもった人のことを言います。つまり最初のステップは言語、そのなかでも文章表現ということになります。
文章表現というのは二つの要素から成り立っています。ひとつは「語彙」でもうひとつは「その組み合わせ」です。たとえば「雲ひとつない青空」という文章表現は「雲」「ひとつない」「青空」という三つの語彙がなければ成立しません。そしてこの三つを重ね合わせる組み合わせ「雲ひとつない青空」が「すばらしい晴天」を表すという知識がなければ使えないのです。
ただし「雲ひとつない青空」にはオリジナリティはありませんし、その人の感じた空の美しさを十全に表現したものとは言いがたいでしょう。それは例えば短歌の「願わくば 花の下にて 春死なん その望月の如月の頃」といった、すさまじい語彙の選択と組み合わせを見せつけられると、歴然としてきます。そしてこの短歌を詠むとき、言葉の音の組み合わせも文章表現の重要な要素であることが分かってきます。
言語表現、コミュニケーション上の表現となるとさらに別な要素が加わります。それは、第一に使う言葉の発音や発声です。声の高低、音の強弱は、言葉でものごとを伝えるうえで大切な条件でしょう。そしてさらにひとつ、「人は見た目が8割」である以上、表情や身振り手振りといった身体表現もコミュニケーション上、相当に重要視されなければなりません。
今日のところは、そこまでです。もちろん学校ですから、絵画表現、音楽表現、数式上の表現といったことも含めると壮大な話になってしまうのですが。