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「働き方改革の行方:誰が教員をまとめ、誰が教員を代表するのか」~自助組織はもういらない①

 政府はようやく重い腰を上げ、教員の働き方改革に手を打とうとしている。
 だが、その内容はとてもではないが教職員の納得できるものではない。
 それにもかかわらず、現場の反対の声は政府に届かない。
 教員の意見をまとめ、教員を代表する人々がいないからだ。
 という話。(写真:フォトAC)

【形の上では働き方改革は進んでいく】

 ニュースによると政府は7日、経済財政諮問会議を開き、来年度予算案の基本方針(骨太の方針)に、「定額働かせ放題」などと批判されている1971年制定の教員給与特措法(給特法)の見直しを含めた待遇改善を盛り込んだようです。

 その基となる提言は、4月28日に開かれた財政制度等審議会財政制度分科会で、財務省は「教員が担う必要のない業務については、文科省・教委が強制的にでも教員の業務としない整理をするなど、踏み込んだ業務の適正化を行うべき」と指摘し、国や教委主導でスクールソーシャルワーカーや部活動指導員などの外部人材の活用などを加速させるよう促したという事情があります。

 同じ4月28日のNHKニュースは、文部科学省が6年ぶりに行った教員の勤務実態調査で、国が残業の上限として示している月45時間を超えるとみられる教員が中学校で77.1%、小学校では64.5%に上ることが分かったと報じられていました。
文科省は勤務時間は減少したものの依然、長時間勤務が続いているとして、教員の処遇の改善や働き方改革を進めることにしています」

 さらに遡る2月には、自民党内でも公立学校教員の給与制度見直しの議論が始まり、水面下で三つの具体案(残業手当の創設・調整手当の大幅増額・前2案の折衷)の検討を行い、萩生田光一政調会長をトップとする「令和の教育人材確保に関する特命委員会」を通して、今年の夏以降に中央教育審議会に出される諮問に反映させようと動き始めたようです。
 
 背景に深刻な教員の志願者減少や教員不足があり、また給特法に関してはさいたま地裁が21年の民事訴訟判決で「もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ず」と付言しているという事情もありますが、政府も財務省文科省も、そして自民党も本当によくやってくれています(やや皮肉)。
 しかし教師たちは何をしているのでしょう?

【教師の意見は割れる】

 例えば政府が「土日休日の部活動を地域に移行」と言えば、SNSには「誰が担ってくれるのだ」とか「都会はいいかもしれないが田舎にはそんな組織はできない」とか、「中途半端なことはしないで、部活全部を地域に出せ」とか「移行できるかどうかを議論する前に、まず全部活を学校から切り離せ」とかさまざまな意見が氾濫します。

 担任手当を創設するらしいと報道されれば「学級担任は大変なのだから当然だ」という意見もあれば、「教員を分断するものだ、断じて受け入れられない」という意見も出てきます。
 残業手当に反対する教師はひとりもいないと思えば、「育児や介護で残業のできない教員は、とりあえず調整手当がなくなる分、減収になるダロ」とか「持ち帰り仕事にしていた教員が一斉に残業に移行するから残業時間の総計はさらに増える」とか「残業手当は青天井ではないからむしろ不満はつのり、残業時間を巡って管理職との対立が昂じる」とか、さまざまな考えが出てきます。
 結局、政府が何を決めても不満は残り、その不満を解消する人はいません。

【誰が教員をまとめ誰が教員を代表するのか】

 本来は政府が動き出す前に誰かが教員側の要求を集約し、一本化して政府に突きつけるべきだったのです。もちろんその段階で掬い上げられない意見もありますが、生かされない意見を聞いて説得したりあきらめさせたり、あるいは将来の展望をしめしてみせるのもその人たちの仕事です。しかし今日まで、だれか教員を代表者して要求をまとめ、政府に突きつけて交渉したという話はつとに聞きません。
 いうまでもなくそれは労働組合の仕事で、日本教職員組合日教組)も全日本教職員組合(全教)も仕事をやっているはずなのです。けれどその様子はまったくニュースにならない。

 組合員数は日教組が23・5万人、全教3万人。組織率では日教組22・9%、全教3・0%(日教組2017年、全教2021年の統計)。合わせても四人に一人にしかならず、しかも自治体ごとに偏在しています。
 これではまったく力にならず、政府・自民党としても完全に無視できる存在なのでしょう。政策になんの影響もないとなれば、マスコミも取材しません。

 思えばつい15年ほど前でも、テレビで日教組を批判する人は少なくなかったのに、今ではその名を口にする人さえいません。批判するほどのこともないのです。日教組の主催する「教育研究全国集会」の会場都市には、右翼の街宣車が毎回大挙して訪れ、ニュースになったものです。しかしだいぶ前からウワサにもならなくなっています。

 かくてSNSでは激しく訴えているにしても、教員の働き方改革は政府・自民党のなすがまま――その温情に期待するしかないのです。教員のできる唯一有効な意思表明は早期退職だけ。まるで太平洋戦争末期の特攻作戦のようなものです。

(この稿、続く)