「『二度と教え子を学校に送るな』と教官は言った」~人々は学校を見捨て始めた②

 教育学部の先生たちが、学生を教員にすることに躊躇していると、
 まことしやかなうわさが流れる。
 無理もない、今や学校は教師にとって戦場だ。
 しかし部活や残業手当に囚われている間は、事態はまったく変化しない。

という話。

(写真:フォトAC)


【二度と教え子を学校に送るな】 

 今年の教員採用試験、応募段階の中学校で2倍を切った自治体はありませんでした。それでも佐賀県は2・0倍ですから採用試験では2倍を切ることになるでしょう。
 その上の3倍を切った自治体は、福岡県(2・6)、福岡市(2・9)、長崎県(2・2)、熊本県(2・9)の3県1市、他にちょうど3倍で実際にはそれ未満となるだろう県が三つ(島根県山口県愛媛県)あります。
中学校の教員免許は経済学部なら社会科、国文学科なら国語と、教育学部を出なくても取れますし、そもそも採用自体が小学校の半分(3年制なので)ですから、どうしても倍率は高くなりがちです。
 逆に言えば、小学校の免許は基本的に教育学部を出なければ取得できないものですから、10代のころから教員を目指し、そのためだけに大学教育を受けてきた人たちの多く教員採用試験を受けないということですから、さらに深刻です。

 第二次世界大戦後、日本の教育界の合言葉のひとつは「二度と教え子を戦場に送るな」でしたが、最近の教育学部では先生たちが「二度と教え子を学校に送るな」を合言葉にしているといいます。
 どこまでほんとうの話か分かりませんが、学校は戦場と同じというのは分からないでもありません。毎年5千人もの教師が教員生命を絶たれ、予備軍も数倍います。惨状に耐えかねて戦線を離脱する教職戦士も少なくないのです。

 

【中学校の部活が全部なくなっても、小学校の先生は楽にならない】

 だから教員の働き方改革は必要だ、というのはもちろんですが、実際に国や自治体がどこまで本気でやろうとしているか、私はだんだん不安になってきました。

 昨日も申し上げた通り、財務省は35人学級のための増員計画が終わらない限りわずか一人の加配も認めないでしょうし、そのことを十分承知している文科省も要求したりしません。
 それでは仕事の方を減らしてくれるかというとまったくその様子はなく、出てきたのは現実性のない部活動の地域移行だけです。もちろん地域移行の全部がダメというわけではなく、地元に剣道クラブがあって剣道部の活動を肩代わりしてくれるとか、稀有な篤志家が手を挙げてくれるということもあろうかと思います。しかし大半の運動部を地域に移行する「持続可能な部活の学校支援(SBG‘s)」となると、まず不可能かと思われます。一昨日は文科系部活も地域に移行するという「絵に描いた餅」ニュースもありました。

kieth-out.hatenablog.jp
 私は「教員の働き方改革」が主に部活問題として扱われていることに不安を感じています。政府や自治体が学校から部活動を切り離す努力をしているあいだじゅう、他の部分は隠されてしまうからです。
 考えても見てください。採用試験が2倍を切るという事態は、小学校でこそ起きているのです。中学校の部活動が全廃となっても小学校の先生の過剰労働は解消しません。

 過剰労働の中核は部活ではありません。本質は教員の本来業務が爆発的に増えたことで、国語・算数・理科・社会・図工・体育くらいしか教えていなかった学級担任(音楽や家庭科は専科)が、総合的な学習の時間や食育・防災教育・性教育などを担わなければいけなくなったことが問題なのです。中学校も同様で、昭和の教師たちは息抜きのために部活に来ていたりしたのです。
 教師の働き方改革で本気で議論しなければならないのは、その部分です。

【残業手当は教員を不幸にする】

 もうひとつは「定額働かせ放題」の問題です。
 公立学校の教員の場合、残業手当を出さない代わりに一律で本給の4%が支払われる教職調整手当というものがあります。かつては「働いても働かなくても自動的にもらえるヤミ給与」と非難されることの多かった手当ですが、十数年前、そうした批判に応えて文科省が試算したところ、残業手当にするととんでもない金額になることが分かって一斉に黙ってしまいました。

 最近、特に若い教員からSNSなどを通じて調整手当の不条理に気づいた若い世代から、きちんと残業手当を支払えという要求が出されていますが、文科省財務省もまったく反応していません。月80時間を越える残業を平気でしている教員に、払う残業手当はないのです。
 この部分で戦いを挑んでも、成果が出るまでには何十年もかかってしまうでしょう。

 もっとも、仮に残業手当ができたとしても、何か幸せとは程遠い感じになりそうです。
 現在の時間外労働すべてに手当が発生するということはあり得ません。どこの組織だって同じで、残業時間には上限が設けられ、それ以上はサービス残業となります。
 お役所仕事の末端ですから、そのつど計画書を書いて校長の裁可を得なくてはなりません。職員の公平を期すためには管理職の査定も厳しくなります。
「この仕事、本当に必要なの?」と訊ねられれば説明に行かなくてはなりません。本当に必要か、成果があるかなんて自分にも分かりませんから厄介な仕事です。
つまり管理職と教員の双方に仕事が増えるわけです。気分も良くない。

 教員はそれぞれが職人気質の個人営業主みたいなものですから、自分のやり方に細々とした口出しをされるのが嫌いなのです。
 残業手当は職人に向きません。調整手当の倍増、3倍増を要求する方が筋はいい、と私は思います。

(この稿、続く)