教員の働き方改革の中にひっそりと忍ばせた中間管理職支援。
必要なことだが今、言い出すべきことなのか――。
まだ端緒にさえついていない感のある部活の地域移行は、
熱意ある教師を愚か者にするところまでは進んだ。
という話。(写真:フォトAC)
中教審の分科会が、教員の働き方改革に関して具体的な方針を提出し、間もなく現場に下ろされてきます。しかし委員に現職教員や教育の専門家がほとんどおらず、調査も丁寧に行った様子のまったくない改革は危うく、「教育改革による教員の負担増」という、これまで繰り返された過ちがまた始まりそうな気がしています。
【この時期に管理職の支援を打ち出していいのか?】
昨日は小学校高学年の教科担任制が教師たちのスキルを奪い、平等だったはずの職員間に亀裂をもたらすのではないかと申し上げましたが、「働き方改革」はもともとが負担を減らす話なので、よほど注意して進めないと不公平な負担軽減となって、職員室の人間関係を崩します。
例えば提言に「副校長・教頭マネジメント支援員」の話が出ていましたが、この件は比較的最近になってからのもので、一般にはもちろん、教員社会でも寝耳に水みたいな話です。
もちろん、改めて観察すれば副校長・教頭という職は多忙といわれる教員の中でも際立って多忙で異常な世界で、私の暮らす自治体では午前7時に出勤して午後9時に退勤するのが、ほぼ最低基準のようになっています。単身赴任の時代に限っての話ですが、私自身は半分面白がって午前4時半には出勤し、午後9時まで学校にいましたから16・5時間労働だったことになります。
それでも副校長・教頭たちが容易に倒れないのは、管理職になるような人たちがもともと学校好きで、長時間労働に馴染むよう、長年時間をかけて体を慣らしてきたせいなのかもしれません。ただしこの中間管理職は往々にして、万引きだの盗撮だのといったロクでもない犯罪で人生を棒に振ったりしますから、自制とか判断とかいった部分では病んで欠損する人が多いのかもしれません。
そんなこともあって、あまり知られていませんが、特に都会では管理職登用試験が回避される傾向にあり、東京都などでは退職校長を再任用しないと足りないほどに不足が進んでいます(現在は定年延長のために緩和)。
副校長や教頭にマネジメント支援員という発想はそうした《背に腹は代えられない》状況から生まれたものです。しかし一般教員の働き方改革がまだ実感できるまでになっていない今の段階で、この話が持ち出されるのはいかがなものでしょう?
確かに中間管理職の支援は必要ですが、十分な説明のないままに今やれば、職員のための予算を管理職がかすめ取って、自分たちが先に楽になろうとしていると受け取られかねません。
必要なことですが、やるべき順番というものがあります。
【部活顧問は続けたい人と辞めたい人だけではない】
部活の地域移行も、そうした面からの注意が必要です。
朝日新聞の調査によれば、「地域移行後も部活指導をしたい」と答えた顧問が、中学校で26・1%、高校では31・3%もいるそうです。ただしこれも状況や条件が変わればもっと増える可能性のあることで、
「自分の得意種目の部活に顧問がいなくて困っている、といった場合なら引き受けるか」とか、「学校生活の他の部分で、大きな負担軽減があれば続けるか」とか問えば、手を上げる顧問は多くなるでしょう。現実性はないにしても「部活手当は月額50万円」とかいったら志望者は爆発的に増えるはずです。結婚資金やマイホーム資金の必要な教員はいくらでもいます。
逆に、現在中学校で四分の一、高校で三分の一近くもいる「やりたい教師」も、条件次第では手を挙げてくれなくなります。
「勤務校単独ではなく、数校にまたがる100人規模の部活でも続けるか」とか、
「遠距離校に異動になっても地元で続けるか」とか、
そんなふうに言えば辞めたくなる人も出てくるでしょう。
今は続けるつもりでも続かなくなる人もいるはずです。
退勤時刻になると次々と帰宅する同僚や、繁忙期に通知票を書いたり進路指導資料を作成したりしている同僚を横目に見ながら、運動着に着替えて部活に向かうのは容易なことではありません。現在は「みんなが顧問をやっている」という事実が支えてくれていますが、それが「やりたい人(他人に負担を押し付けたくないので自分がやりたい人も含む)」だけの道楽みたいな仕事となり、陰で「BDK(部活大好き教師)」などと揶揄されたのでは、とてもではありませんが続けて行くのは困難です。
【部活顧問は単なる好き者だったのか】
同じ部活顧問でもこんなふうに様々な立場と状況があります。それを一律に「部活は地域に移行します」「やりたい人は(趣味みたいなものですから)続けてください」では意欲のある教師から潰れて行きます。
これは非常に繊細な問題です。
とりあえず現在の学校には「身を削っても日本の国民体育や芸術を下支えしていきたい」という人たちが数十万人もいるのです。それをある程度維持できるのか、あるいは全滅させて学校外に、改めて同じような人々を育成できるのか、今が重大な分かれ目です。
繰り返しますが中学校の四分の一、高校の三分の一もの部活顧問が、地域移行後も部活の指導をしてもいいと言ってくれているのです。
日本の体育や芸術を支え、諸外国と比べて信じられないほどに情熱を傾けてきたこの人たちを、ただの「もの好き」あるいは「好き者」あつかいにして、この国の質の高い教育は続けていけるのでしょうか?
(この稿、続く)