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「中教審の緊急提言は教師を幸せにするのか」~今の働き方改革は教師を幸せにするのだろうか②

 中教審の「質の高い教師の確保特別部会」から緊急提言が出された。
 教員の働き方改革を思い切って進める大胆な提案だが、
 実現の可能性があるかどうかということは別にしても、
 うまくいった場合、これで教師は幸せになるだろうか。
 という話。(写真:フォトAC)

中教審:質の高い教師の確保特別部会緊急提言】

 一昨日の2023年8月28日、中央教育審議会初等中等教育分科会「質の高い教師の確保特別部会」は、「教師を取り巻く環境整備について緊急的に取り組むべき施策」を発表しました。教師を取り巻く環境は危機的状況にあるとして、業務の適正化、授業時数の点検、支援スタッフの充実などを緊急提言しているそうです。

 提言内容は「学校・教師が担う業務の適正化の一層の推進」「学校における働き方改革の実効性の向上等」「持続可能な勤務環境整備等の支援の充実」の3点で、具体的には2019年の中央教育審議会答申で示された「学校・教師が担う業務に係る3分類」に基づき、「登下校の対応」「校内清掃」「進路指導」など14の業務について考え方を明確化し、役割分担や適正化を推進するとしています。
 また、すべての学校の授業時数を点検し、特に標準授業時数を大幅に上回っている学校(年間1,086単位時間以上)は、削減することを前提に検討を求め、学校行事についても精選・重点化、準備の簡素化・省力化を図るとしています。学校と保護者間の連絡手段のデジタル化など、ICT活用による校務効率化を推進します。
 
 教師の持ちコマ数の軽減にもつながる小学校高学年の教科担任制の強化など、教職員定数を改善し、教員業務支援員の全小中学校配置をはじめ、副校長・教頭マネジメント支援員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、学校指導員、部活動指導員など、支援スタッフの配置を充実させるとしています。また処遇については、主任手当や管理職手当の額を速やかに改善。教師のなり手を新たに発掘するため、大学と教育委員会による教員養成課程の見直し、地域枠の設定、奨学金の返還支援の速やかな検討を推進するそうです。

【まるで夢物語】

 3分類14業務について、すでに忘れてしまった人も多いとおもうので欄外にまとめておきます(*1)が、改めて読んで、登下校の見守りや児童生徒が補導された場合の対応、休み時間の見守りや部活動も外部人材の活用の対象となると、現在の教職員の0・5倍ないしは同数程度の人材が見込まれ、提言の言う、
 教員業務支援員の全小中学校配置をはじめ、副校長・教頭マネジメント支援員、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、学校指導員、部活動指導員など、支援スタッフの配置を充実させる
には、こころ躍らされるものがあります。

 教員業務支援員は教諭二人につき一人程度は配当されるのでしょうか? 部活顧問は副顧問までボランティアでというのはやはり無理があるでしょうね、でも主顧問がプロの指導者なら問題は少ないでしょう。事務の先生に任される仕事も増えそうですから、当然、事務職二人配置の学校も格段に増えることでしょう。
 さらに4番目の「地域ボランティアとの連絡調整」も《学校以外が担うべき》となると、学校は仕事を丸投げすればいいわけで、これだと確かに余裕は生まれ、「教員になってみようか」と考える人も増えてくるかもしれません。
 
 しかしボランティアだの支援員だのは、地域からいくらでも湧いて出てくるものなのでしょうか? また、国は人件費の三分の一を出すと言っていますが、地方に残りの三分の二を担うだけの予算的な余裕はあるのでしょうか? 
 そもそも世の中あちらでもこちらでも人手不足と言っている時代に、学校で、しかも安月給または無償で、変則的な勤務で、働いていいという人材が、どれほどいるのでしょう?

【これで教師は幸せになるのか】

 さらに言えば、記事にあることがすべて実現した暁に、教師は幸せになっているのかどうか、私ははなはだ疑問に思うのです。
 
 例えば高学年の教科担任制。これが充実すれば教材研究や準備をしなくて済む分、楽になるのは明らかです。しかし教師は自分が担当しなかった教科の指導スキルを、一時的にしろ失うことになります。5・6年生の国語を2年続けて教えなかった場合、3年目に改めて担当することになったら、簡単に背負えることができるのか――。
 当然ここは校長との交渉になり、国語を担当しなくて済む学年・学校への異動を考えなくてはならなくなります。教員本人より、校長先生の頭の痛いところです。可能性がなければ、また古い指導書を引っ張り出して来て、勉強するしかありません。
 
 単なる授業交換ではなく、教師の持ちコマ数の軽減にもつながる小学校高学年の教科担任制となると当然、新しい先生が高学年に加わることになります。
(この場合の最も恐ろしい想像は、指導要領の時数表を見ただけの中教審委員や文科省の役人が、「なんだ中学校の社会科教員は各学年、週に3時間―3時間―4時間、計10時間しか働いていないじゃないか。二クラスずつあったとしても20時間。だったら空いた時間、この人たちに小学校の授業を見てもらおう」となることですが、その話は今は別として)
 教科担任制がうまくいったとして、高学年の担任のコマ数が現在の29~30から20くらいまで減ると、低中学年の先生たちとの間に明らかな差が生まれます。その不公平、心理的な亀裂をどうしたらいいのでしょう?
 もともと高学年の方が大変で、低学年や中学年の教師は楽だ、などという事実はないのです。だったら高学年の担任の、浮いた10時間のうち半分くらいを使って、低中学年の授業を担当してもらいましょうか?
 面倒なことですね。
(この稿、続く)

*1:「3分類14業務」