「いじめ調査バブル:認知件数にはありとあらゆるものが詰め込まれている」~不登校もいじめも過去最多について①

文科省の調査の結果、いじめも不登校も過去最多になったとか。
いずれもコロナ禍といった非常事態でもない限り減ることはない。
数十年に渡って対策を打って来たのに増え続けるいじめと不登校
しかしそれには理由があるのだ。
という話。(写真:フォトAC)

【対策を打っても、ひたすら増え続ける不登校といじめ】

 先週金曜日、文科省から「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」(2022.10.27)が発表され、メディアが一斉に報道しました。
 代表的な記事としては毎日新聞「不登校、いじめとも過去最多 コロナ影響か 文科省、21年度調査」(2022.10.28)などがありますが、極めて事務的に、文科省の発表を解説するにとどまっています。

 不登校が社会問題となり始めた1975年ごろから数えて半世紀近く、また、いじめ問題では世間を震撼させた「中野富士見中学校いじめ自殺事件(通称『葬式ごっこいじめ自殺事件』)」(1986)から36年余り、さまざまな方面から検討され対策も山ほど打って来たのに、数は減るどころかひたすら増え続け、不登校は小学校で1000人あたり13人、中学校では1000人当たり50人にも上っています。
 いじめ件数に至っては、小学生の100人に8人、中学生の100人に3人が被害者となっていて、これはイジメの定義が現在のものとなった8年前の平成25年と比べても、小学校でおよそ4・5倍、中学校は1・9倍にもなっているのです。

 対策を打っているにも関わらずひたすら増え続ける不登校といじめ――。ここに至ってマスメディアも、個々の事件・事例は扱っても全体としては言うべき言葉を失い、ただ事実を伝えるにとどまっている感があります。専門家にマイクを向けても画期的な発言をしてくれる人がいないからです。

【いじめ定義の変遷と現在】

 いじめ事件の件数については良く知られる下のようなグラフがあります。

 もはや最大値が70万件ですから目立たなくなってしまいましたが昭和60年の最初の調査から件数は徐々に減っていき、平成6年に爆発的に増加してやがてまた減少に転じ、平成18年に再び爆発的に増加して、平成25年からはひたすら増加を続けているというのが現状です。
 なぜ3回も急激な増加があったのかというと、そこで「いじめの定義」が変更され、そのつど報告のハードルが下げられたからです。定義が異なるためグラフもその部分に波線を入れて切ってあります。
 
 そのときどきでどんな変更がなされたかということは、文科省「いじめの問題に対する施策」「いじめの定義(いじめの定義の変遷)」に詳しくありますが、現段階の「いじめの定義」は次のようになっています。
 「いじめ」とは、「児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等当該児童生徒と一定の人的関係のある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものも含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。
 「いじめ」の中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められ、早期に警察に相談することが重要なものや、児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるような、直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる。これらについては、教育的な配慮や被害者の意向への配慮のうえで、早期に警察に相談・通報の上、警察と連携した対応を取ることが必要である。

【いじめ認知件数にはありとあらゆるものが詰め込まれている】

 ここで指摘したいことが二つあります。
 ひとつは「いじめが被害者の意識によって決まる」という点です。まったく同じ事象が起こっても、行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じなければ、それはいじめではないのです。逆に「他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為」が客観的にどれほど軽くても、対象者となった子どもが苦痛を感じれば、いじめです。
 平成25年までの定義では「個々の行為が『いじめ』に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする」と、公平な立場あるいは第三者の立場で判断するのではなく、あくまで被害者の側に立って判断するようにとの注意書きまでありました。それが今も尾を引いています。
 
 私はかつて小学校6年生の女子グループで、ナンバー2だった女の子が弾き出され、無視されるといういじめ事件の指導をしたことがあります。その際の、新たにナンバー2の地位を獲得した女の子の言葉を、忘れることができません。
「私だって昔、同じ目に遭った。でも何も言わなかった。それなのにあの子、『いじめ』『いじめ』ってうるさいのよ」
 その話が本当だったとしても、旧ナンバー2が無視されている現在の状況はいじめであり、新ナンバー2の過去の事件はいじめではありません。なぜなら昔の事件で被害の訴えはなかったからです。苦痛は感じていたのかもしれませんが、表現されない感情はないも同じです。「いじめの定義」の意味するところがそれです。

 指摘したいことのもうひとつは「「いじめ」の中には(中略)直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる」という部分です。しかしここでは指摘するだけで、詳しいことは後に回しましょう。
 言いたいのは、今回発表のいじめ認知事件61万5000件のなかには、極めて悪質な恐喝事件から、呆れるほど軽微なものもまので、ありとあらゆるものが詰め込まれているということです。
(この稿、続く)