カイト・カフェ

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「対抗策:通知票はやめる、大切な書類は直接親が届ける」~文科省が学校に容赦のない通知を出している①

 官邸のハンコレス方針に従って、文科省も学校に押印の廃止を指示したという。
 親に押印させる書類なんて、さほどないと思うのだが、
 それでもやめて、オンラインで連絡できるようにするらしい。
 保護者には便利かもしれない。しかしこれで学校は死ぬ。

という話。

f:id:kite-cafe:20201022065414j:plain(写真:フォトAC)

【私はキレた】

 私は頭の切れる人間ではありませんが、どうやら頭のキレやすい人間ではあるようです。
 昨日キレたのは2020.10.20「学校との連絡もハンコレスに 国がデジタル化へ通知」という朝日新聞の記事を読んだからです。

 それによると、
学校と保護者の連絡手段を「紙」から「デジタル」にし、ハンコは省略――。文部科学省20日、全国の教育委員会都道府県にそんな通知を出した。押印を省き、メールなどを使うことで保護者の負担を減らし、教員の業務効率化を図る。
 覚えておいていただきたい。「教員の業務効率化」です。

 続いて、
学校では行事への参加申し込み、アレルギーの確認、欠席連絡、進路調査など様々な連絡を書面で行い、必要な場合は押印を求めている。ただ、押印は学校と家庭の信頼関係を高める上で慣例的に使われているに過ぎず、法律で義務づけられてはいない。
 なるほど。

 そうした状況を踏まえて、通知は、
▽保護者へのアンケートはURLやQRコードスマートフォンやパソコンで読み取って回答
▽欠席や遅刻の連絡は電話ではなく専用フォームで
▽学校のお便りは直接メールで配信
などのデジタル化の具体例を示し、可能なところからの導入を求めたとのことです。

文科省は「学校は印刷・配布業務が軽減され、保護者はスマホなどでいつでもどこでも閲覧できる」とメリットを説明する。

 また
児童生徒や他人が保護者になりすますのを防ぐため、個人IDやパスワードの設定のほか、デジタル対応が難しい家庭向けに、書面による連絡にも対応する配慮を求めた。

萩生田光一文科相20日閣議後会見で「あくまでハンコをなくすだけで、今まで通りの連絡ツールも残す。デジタルとアナログのハイブリッドで進めることが必要」と述べた。

 怒りと苛立ちで、今も、キーボードに乗せる指が正しいキーを打てません。
 
 

【押印は意味のない単なる慣習なのか】

学校では行事への参加申し込み、アレルギーの確認、欠席連絡、進路調査など様々な連絡を書面で行い、必要な場合は押印を求めている。

 要するに学校が印鑑を必要とする場面はそうたくさんはないということです。しかもここに上げられた例はすべて重要なものであって、その都度、覚悟や確認を必要とするものです。それをサインだけで済ませていいものか?

 押印は日本の文化であって、場面によって程度に差はあるものの、サインに比べたらずっと重いのです。
 たとえ三文判でも、子どもにとって親の印を盗用したり押印を偽造するのは一定の覚悟がいることで、そこに確実にハードルがあります。したがって押印は現在でも、保護者の意志を証明する強い力を持っているのです。

 しかしだったらサインでもいいじゃないかという人もいるかもしれませんが、普通の教員は大学で筆跡鑑定など学んできません(*)。学校に筆跡を見分ける能力がない以上、押印がなくてもいいということは誰が書いても良いということです。大切な書類が子どもの意志だけで出されていく――。

 親の知らぬ間に進路調査が子どもの意志だけで出されたり、アレルギーでもないのに牛乳嫌いの子が牛乳アレルギーを申告したり――逆にアレルギーがあるにもかかわらず他の子と違った扱いをされたくないばかりに「なし」と書いてアナフィラキシーを起こしたり――。

 もちろん現在だって親の印を持ち出す子はいますが、そんな子は、どんな方法を用いてもやりたいことをやります。デジタル化したところで変わりません。
*ちなみに私は保護者の連絡文で文字も文章もあまりに酷いので、本人もしくはその友だちが書いたものだと思い込んで、ひどく保護者を傷つけたことがあります。

 

【通知票はやめる】

 押印は学校と家庭の信頼関係を高める上で慣例的に使われているに過ぎず、法律で義務づけられてはいない。
 信頼を高めることに効果のあるものでも、法律で義務づけられていないことはやらなくていいという意味でしょうか?
 だとしたら押印より先にやめてもらいたいものがあります。通知票です。

 引用した記事の「押印」は「通知票」に変えてもまったく問題はありません。通知票は公文書ではありませんが、親と学校の信頼関係を高めるために校長の権限で行っている慣例です。しかし確実に教員の負担軽減となることが分かっているのに、文科省が廃止の方向で考えているという話はつとに聞きません。

 押印に先立って、通知票は是非ともやめてほしい。通知票をなくせば教員の負担が大いに削減されるとともに、毎学期保護者に“大きな負担”をかけてきた確認印も押さずに済みます。

 押印廃止はこんなふうに、そもそも書類自体が必要なものか、法律に定められているか、などを基準に、ひとつひとつ確認して進めるべきです。
 
 

【大切な書類は親が直接学校に届けるようにする

 押印がなくなったからといって、片っぱしデジタル通信に乗せるのもやめにしていただきたい。
 児童生徒や他人が保護者になりすますのを防ぐため、個人IDやパスワードの設定と言っても、保護者がIDやパスワードを守ってくれる保証はないからです。

「ちょっとお母さん忙しいから、欠席連絡、自分で出しておいて。IDは〇〇〇〇〇〇、パスワードは××××××だからね。先生にばれないようにやってよ」
「うん、スマホじゃなくてパソコンからやっておく」
 そのくらいのことはいくらでも起きそうです。そしてその子は以後、好きなように行事に参加したりしなかったり、進路調査にも適当に答えて、好きな時に休むことができるようになります。家出をしたくなったら朝のうちに母親の名前で欠席届を出せば、夜までは探されずに済みます。

 やはりオンラインの連絡は危険です。しかし押印廃止は不可避なようですから、アレルギー調査や欠席調査、進路調査などの重要な書類については、印を押す代わりに保護者本人が学校に手渡しで届けることにしましょう。
 それなら確実です。

(この稿、続く)