カイト・カフェ

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「“今年の夏は学校の休みが長いらしい”という件について」~授業日数の話

 エアコン設置のためや あるいは工事計画が間に合わないために
 今年は夏休みを前倒しにした学校が少なくないという
 しかしエアコンが完備する来年以降は
 夏休みもぐんと減らされるだろう
 新指導要領の内容が消化できないからだ
 問題はそれだけですまない
というお話。f:id:kite-cafe:20190716060836j:plain(「向日葵畑と学校」phtoAC

【夏休みは延びているのか?】

 先週金曜日のニュースに「各地で相次ぐ夏休み“前倒し” 親たちは…」(2019.07.12 日テレNEWS24)というのがありました。

 それによると、千葉県千葉市や愛知県瀬戸市の小中学校では夏休みを一週間程度前倒しして、7月の13日(土)から始まったとのこと。
 ネット上では、
「夏休み長すぎでしょ」「13日からだって、うらやましすぎる」「親にとっても長い夏休みになりそう」
といった声が上がり保護者からは、
「暑い教室の中での授業もなかなか無理があるのかな」
と理解が示される一方で、
「(夏休み)長いなと思いました。早いなと思いました。私は仕事をしているので、平日、毎日お弁当作らなきゃなって」
「(1週間早い分)子どもたちを実家に預けたりとかして、負担をかけなきゃいけないっていう心配はあるので」

といった戸惑いの声も少なくないようです。

 ただし記事をよく読むと、タイトルの「各地で相次ぐ夏休み“前倒し” 親たちは…」は言い過ぎで、「エアコン設置のための前倒し」という面が強いようです。

 文部科学省は、去年、愛知県でおきた熱中症の死亡事故をうけて、エアコン設置が間に合わない学校は“夏休みの前倒し”を検討するよう通知を出した。
 エアコン設置率が9.6パーセントにとどまっている千葉市千葉市立真砂第五小学校もエアコンは未設置で、今年度中に6学年全てのクラスに設置する予定だ。


 夏休みについてはむしろ“短縮”が全国的な流れで、千葉市瀬戸市の小中学校も晴れてエアコン設置の済んだ来年の夏は、1週間長かった今年に比べると2週間くらい短くなって不思議ありません。
 子どもたちはガッカリし、保護者の多くがホッと胸をなでおろす。そして先生たちは――。
 教師の働き方改革が言われる中で、授業日数の増加がどういう影響を与えるか、これは大体想像のつくところです。

【授業日数には大きな差がある】

 ところで、あまり知られていないことですが、公立の小中学校の授業日数というのは市町村教育委員会の指導のもとで学校ごとに決められるため、全国的にみると「175日以下~206日以上」と大きな開きがあるのです。

平成27年度公立小・中学校における教育課程の編成・実施状況調査の結果についてより

 見える数字だけで最大(206日)と最小(175日)を取ってもなんと31日、約一か月の違い。学校の一週間は5日ですので計算上6週間もの差があることになります。

 しかもこの統計、「175以下」「206以上」が曲者で、底と天井が見えません。私の知る限りで言えば212日という学校がありましたから、最低を175日としてもその差は37日、7週間と2日も違います。

 さらに私立の小中学校を考えると、年間を通して土曜日の授業を行っているところは半日日課とはいえ、それだけでも40日増しとなります。差はどれだけ広がるか分かりません。

【授業日数の差はあまり問題にならない】

 したがって千葉市瀬戸市が夏休みを1週間前倒ししたとか、逆に夏休みを削減して授業日数を増やしている学校があるとか言っても、元の日数が分からないとそれが過剰な夏休みなのか、妥当な範囲なのか、あるいはまだまだ増やしていい段階なのかは分かりません。

「地域や学校によって授業日数には大きな開きがある」という事実があまり問題にならなかったのは、日数と学力との間に相関がなかったからでしょう。全国学力学習状況調査連続日本一の秋田県が215日以上とかいう話なら焦りますが、実際には常識的な200日前後です。

 しかしそれにも関わらず、新学習指導要領で増やされた内容を消化するために土曜授業や夏休みの短縮で何とかやり繰りしようという動きは止まりません。
 来年度以降、多くの学校でエアコンが導入されるのを機に、この傾向はさらに深まるでしょう。

【これからなくなるもの】

 ところで、私が教員になったころ言われたのは、
「先生はいいよ。給料は安くて責任も重いけど、なにしろ夏休みがあるからね」
ということでした。

 確かに、当時夏休みと言えばわずかな日直とプール当番、毎日3時間ほどの部活に出るだけであとは自分の好きなように過ごすことができました。私はため込んだ本ばかりを読んでいました。
 それがいつの間にか「税金で食っている教師が、夏の間中遊んでいるのはけしからん」ということになって、さまざまな研修や行事を無理やり詰め込み、夏休みも休めないようにしてしまったのです。

「給料が安くて責任が重い」だけが残った。

 しかしそれでも学校に子どもの来ない夏休みは、緊張もほぐれ、精神的に休まって、普段はできない研究に充てることもできたのです。その夏休み自体が今度は削られていきます。
 次になくなるのは何でしょう?
 
 私は知っています。すでにその兆候がありますから。

 次になくなるのは、教員志望の人たちです。