カイト・カフェ

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「新潟燕の挑戦」~部活動の新しい試み 1 

 新潟県燕市
 教員の働き方改革を推進したい市教委と
 学校生活に少しでも余裕を生み出したい顧問教師と
 それでももっと練習をしたい選手生徒の
 全員が満足できる新しい取り組みが始まった

というお話。f:id:kite-cafe:20190717075156j:plain(「バレーボールの試合」phtoAC

【つばくろいきいきスポーツクラブ】

 昨日に続いて先週金曜日のニュースの話ですが、NHKの朝の「おはよう日本」で、新潟県燕市が設置した「燕市つばくろいきいきスポーツクラブ」についてやっていました。(NHKニュース「おはよう日本」7月12日05:12~)

 燕市では昨年度文科省の指導に従って「燕市小中学校 いきいき課外活動のあり方に係る方針」を策定しました。部活動の時間を平日は約2時間まで、早朝練習はなし、週2日以上休養日を確保することなど標準的なもので、顧問からは空いた時間を有意義に使えるなどと好評な反面、生徒からは大好きな部活をもっとやりたいという希望も強く出されていました。
 そこで市は「燕市つばくろいきいきスポーツクラブ」を開設。学校の部活のない日に希望者を集め、専門家の指導を受けられるようにしたのです。

おはよう日本」で紹介されたのはバレーボールの参加者たちで、参加費は1回500円。初回には22人が集まり、実業団の指導者ら6人が指導にあたったと言います。
 これはなかなか優れたアイデアです。

 教員の負担軽減を図るうえで部活ボランティア指導員の活用は欠かせないなどといいますが、実際にそんなに人を集められるものではありません。例えば燕市内だけでも中学校は5校、そのすべてに男女バレーボール部があるとすると必要なボランティア指導員は最低でも10人ということになります。人口8万人足らずの小都市ではとてもできるものではありません。しかも部活動はバレーボールだけではないのです。

 ただし今回の燕市のように、希望者を募って一か所でやるとなると話は別です。日によって多少指導員の数が変動するにしても、生徒にとっての公平性は保たれます。極端に言えばコーチがひとりしかいない日があってもかまわないのです。あちらの学校には専任のコーチがいてこちらにはいないとった不公平な状況より、はるかにマシです。

 また実業団の指導者というのもいい目の付け所で、実業団、大学のコーチ、高校の監督などもねらい目です。この人たちには中学生に教えるメリットがあるからです。

【全体が強くなければ自分も強くなれない】

 すこし寄り道をしますが、私がバレーボール部の顧問をしていた30年ほど前、当時勤務していた学校の隣町にすごい教師が赴任してきました。バレーボールの指導者としては県で一二を争う技量の持ち主で、全国大会にもたびたび出場を果たした人です。

 面白かったのはその教師の赴任先が、これが偶然なのか意図的な人事だったのか、地域内ではバレーボール最弱の学校で、選手たちは学校のアスリートというよりは地域のダイエットクラブ参加者みたいなコロコロした子たちばかりです。

 結局3年後にはとんでもないチームに育て上げて県大会に行くのですが、その教師が赴任したばかりでまずやったのが、自分のチームを育てるとともに地域の生徒を育てるという仕事でした。

 具体的に言うと地域では今まで一度もやったことのない「合同講習会」を立ち上げ、域内の中学生チームを片端集め、自分の持っている技術を惜しみなく披露したのです。さらに講習会が4回、5回と進むと、全国に名の知れた高校の監督やら実業団のコーチやらを招いて新たな学習をさせます。
 高校や実業団の監督やコーチはしばしば選手を同行させ来ますから、子どもたちを教える人数としても十分です。

 お陰で私のチームもずいぶん強くなりましたが、全体が底上げされてしまったので順位としてはさほど変わりません。そして「合同講習会」を始めた先生の学校は圧倒的な力で上位の大会に進んでいきました。

 彼が「合同講習会」を始めたのは、言うまでもなく周囲の学校が強くなければ自分の学校も強くなれないとの信念からです。数年後の全国大会出場も視野に入れていますから、地域が強くなればなるほど、それを撃破して上位に進む自分のチームの力も増すわけです。

【選手を継続的に成長させるスポーツのネットワーク】

 そうしてつくりあげたチームの中から、彼は優秀なメンバーを県内の有力高校に送り込みます。優秀な選手の欲しい高校とバレーボールを続けたい生徒との利害は一致しますから問題ないでしょう。
 高校で活躍したあとはさらに、実業団あるいはバレーボールの有名大学という話になります。

 おそらくほとんどの競技にこうしたネットワークがあって、有能な顧問・監督・コーチたちが常に連絡し合っています。高校の監督や実業団のコーチがそんな田舎の中学生のために大切な時間を使ってくれるのは、要するにバレーボール・ネットワークを維持するためであり、同時にリクルートのためなのです。

 監督やコーチにとっては優秀な選手を子どものころから見ることができる、
 選手にとっては基礎を学ぶところから一流の人たちの指導を受けることができる、
 部活顧問の教師にとっては空いた時間を授業準備などに充てることができる、
 保護者たちにとっては子どもの活動に隙間ができないので安心して本来の仕事に勤しむことができる。
 市町村にとっては教員の働き方改革を進めるとともに「練習をもっとしたい」と思っている生徒や保護者の要望に応えたことにもなる――。


 ウィン・ウィンどころか五者ウィン・ウィン・ウィン・ウィン・ウィンみたいな素晴らしいアイデアです。

 新潟県燕市の「つばくろいきいきスポーツクラブ」――現状ではこれ以上ない仕組みです。
 ――と徹底的に誉めておいて、明日、腐します。

(この稿、続く)