「日本体操協会パワハラ事件と奄美中1指導死事件」1~客観的で公正だから悩む

 
 日本体操協会パワハラ問題における第三者委員会の裁定。
 塚原夫妻の言動に問題はあるがパワハラとして地位を奪うほどのものではない。
 宮川選手の行動にも問題はある。
 ――は非常に客観的で公正だが、学校のいじめ問題と比べると違和感がある。
 奄美中1自殺事件の第三者委員会の報告書と比べてみよう。


 というお話。

 

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 日本体操協会パワハラ事件に決着がつく】
 一昨日(9日)の産経ニュースに『塚原夫妻の体操パワハラ認定せず 職務停止を解除 宮川紗江「どうしてこんな結論が…」』と言う記事がありました。

 それによると、
 体操女子の宮川紗江(高須クリニック)が日本体操協会塚原千恵子女子強化本部長と夫の塚原光男副会長からのパワハラを告発した問題で、日本協会は10日、東京都内で臨時理事会を開き、懲罰対象となるようなパワハラはなかったと認定、2人への一時職務停止解除を決定した。一方、宮川の代理人は同日、宮川が「信じられない。何でこんな結論が出たんだろう」と話したことを明らかにした。
(中略)
 この日公表された第三者委員会(委員長・岩井重一元東京弁護士会会長)の報告書では、塚原夫妻側に「不適切な点」が多々あったとする一方、「悪性度の高い否定的な評価に値する行為であるとまではいえない」とし、処分に値しないと結論づけた。また、宮川と速見コーチの引き離し行為について「認められない」とした。

 この件につい私は過去に4回ほど扱っていますが()、いかにハラスメントは被害者の主観の問題であるとはいえ、物理的なコーチの暴力には傷つかないが強化本部長の威圧的な態度・物言いには深く傷ついたという18歳の少女の発言を根拠に、ひとりの人間の地位や立場をはく奪するのはやはり困難だと思いました。人を処分するのですから多少の客観性はなくてはなりません。

 この事件に関して、体操協会のOB・OGからも宮川選手を支持する多くの声が寄せられていましたから、塚原夫妻に何らかの問題はあるのも間違いないでしょう。夫妻の不徳の致すところですから相応の処置が必要かと思いますが、それはそれ、これはこれです。

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【確かに良くないが、決定的に悪いわけではない】
 指導の過程で口にしたという、
「(速見コーチの暴力を)あなたが認めないとあなたが厳しい状況になるのよ」
「あのコーチは駄目、だからあなたは伸びない。伸びないのはコーチのせい。私なら速見の100倍は教えられる」
「家族でどうかしている、宗教みたい」
「オリンピックにも出られなくなるわよ」

はどれも感心しないものの、コーチの悪行を告発しようという切っ先の鋭い場です。宮川選手が抵抗すれば否が応にも言葉はきつくなります。多少の勇み足はあったとしても、この程度で職を失うようでは指導は務まりません。そもそも人間関係も成り立たないと思うのです。

 人はいつも正しいやり方で正しいことを行うというわけにはいきません。失言もたくさんしますし過ちも犯します。しかしそれを上回る善意や善行があれば、それで善しとして迎え入れ、何もなければ、あるいはさらに冷たい言葉や態度を行うようだったら見捨てればいいだけのことです。普通、私たちはそのようにしています。

 宮川選手は信仰と言っていいほどの信頼を寄せるコーチと、引き離される可能性で頭がいっぱいだったのでしょう。そんな状況での強化本部長の言葉はいちいち恐ろしく、威圧的に感じられたのかもしれません。

 暴力より恐ろしいパワーハラスメントだと感たのは18歳の少女には無理なからぬことだったのかもしれませんが、そんなふうに思い詰めた気持ちは、周囲が冷ましてやらなくてはならないのです。
 第三者委員会の結論は、その意味でも正しいものだったと私は思います。

 
【客観的で公正だから悩む】
 ところで、結論はそれでいいのですが、あのとき宮川選手が記者会見で告発することをせず、死をもって抗議していたとしたらどうなっていたでしょう。

 あるいは宮川選手の側ではなく、マスコミの攻勢とバッシングに耐えかねた塚原夫妻のいずれか、あるいは両方が死を選択したとしたら、現在の状況はどう変わっていたのでしょうか?

 宮川選手は18歳にしてはしっかりしたお嬢さんですし、塚原夫妻はそんなに簡単に死ぬようなタマではないということは問題にはなりません。いかにも自殺しそうな人だけが死ぬなら、世の中の問題はずいぶんと簡単になってしまいます。

 今回の日本体操協会三者委員会は塚原夫妻のパワハラを認定せず処分もしませんでしたが、騒動における言動を問題視し、新たに創設する「特別調査委員会」で協会を通さずにマスメディアに発言した行為などが倫理規定や行動規範に抵触するかどうかを検討することにしたと言います。対象には記者会見などを協会を通さずに行った宮川選手も含まれます。
 そういったことも含め、今回の報告は非常にバランスの取れたものでしたが、関係者の中の誰か一人が自殺するだけで、全体の風景はまったく異なったものになったと思うのです。


奄美中一『指導死』事件】
 話が飛躍しすぎました。
 日本体操協会三者委員会の報告書が、非常に客観的で公正なものだと感心したのでかえって意地悪をしたくなっただけです。

 というのは同じ一昨日(9日)のニュースに『奄美中1自殺は「指導死」 第三者委が市に報告書提出』(毎日新聞)というのがあって、別な意味で深く考えさせられたからです。

 鹿児島県奄美市で心ない教師の言動に中学一年生男子が自殺した事件で、関係性から言えば塚原夫妻に追い詰められた宮川選手のような立場です。いじめがらみの事件は非常に特異なことに、今回の場合は被害者とされる子ではなく、加害者と目された方が亡くなったのです。
 第三者委員会の報告書も、ずいぶんと雰囲気の違うものになっています。


                        (この稿、続く)