結婚式を挙げる人が急速に減っている。
もちろん以前から、
結婚式などしたくない人や十分な資金のないひとはいた。
しかしいま進行しているのは、別の問題なのだ、
という話。(写真:フォトAC)
【時に不機嫌な結婚式】
結婚式や披露宴をやろうとするいちいちジェンダーバイアスだの家父長制の残滓などが目の前に現れて気分が良くない。親の顔を立てて来賓にお偉いさんを詠んだら挨拶で、
「これからも両家の弥栄を願って・・・」
とか言い始める。内心、《両家、関係なくね?》と思う。憲法にも、
「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」(憲法24条1項)
とあって、“両家”などという時代錯誤も甚だしい。
《こんなことなら結婚式なんてやるんじゃなかった》
腹の中でそんなふうに考えている新郎新婦もいるのかもしれません。
そうした思いとは別に、注目されることが嫌い、セレモニーのひとつひとつが子どもじみていて恥ずかしい、という人もいます。かつての私の同僚もそのひとりで、私は出席しなかったので後で写真を見せてもらっただけですが、新郎の写る写真はことごとく不機嫌な顔で、隣で満面の笑みを浮かべる新婦と対照すると、背後で動くドラマをどうしても感じざるを得ないものでした。
【結婚式をしない理由】
ある調査*1によると、何らかの形で挙式・披露宴を行ったというカップルは2023年度に45.3%。これから行う予定という人たちを含めると63%であったといいます。残り37%のうち19.3%が写真のみ(実施あるいは予定)、17.7%が何もしない、いわゆる“ナシ婚”なのだそうです。別の調査(クロス・マーケティング社の調査*2)によると、婚姻数に対する結婚式を挙げる人の割合は2007年に84%もあったと言いますからたいへんな減りようです。
結婚式をしない理由(複数回答)としては、「ほかのことのお金をかけたかった(40.6%)」「興味がわかなかった(29.4%)」「準備が面倒(28.2%)」「注目を浴びることが恥ずかしい(25.9%)」が代表的なところ。
しかしこうした内容は今に始まったことではありません。結婚式は昔から金がかかり、準備が大変で、多くの場合、特に新郎にとっては大して興味のわく話ではありませんでした。そう考えると結婚式が減ったのは、式を挙げない理由が増えたというよりも、式を上げる理由が減ったと考える方が妥当です。
*1:マイナビウエディング「2023年 結婚・結婚式の実態調査」
*2:進む「結婚式離れ」・広がる「ありのまま婚」、最新のウェディング事情は?
【結婚式をする理由が消えていく】
結婚式というのは、そもそも家と家との同盟関係を明らかにし、神の加護を願うものでした。その意味では安全保障にかかわる儀式です。
したがって明治中頃までは「親戚」と「隣人」という安全保障上の二つの重要な組織で、その構成員を呼んでお披露目するのが一般的でした。「友人」も「隣人」の中にいましたから別建てにする必要はありません。
ところが明治後半から大正・昭和にかけて、田舎を離れて都会に出る若者がいたり、進学によって遠くの地域の仲間と結びついたり、あるいはサラリーマンとなって「職場」が安全保障上の重要な組織となったりと、さまざまに変化してきたのです。それに連れて都会では参列者に「(近隣ではない)友人」と「職場の人々」が加わってきました。やがて田舎でも「親戚」と「近隣」と「職場」「友人」の四者に来てもらうのが一般的となりました。そこまでが昭和です。
平成になると「近隣」が安全保障上どうしても必要な組織とみなされなくなり、結婚式から外されます。親たちにとっては未だ必要な枠組みでしたが、地域に根を張らない若者にとっては面倒くさいだけの存在でした。
平成の終わりごろから令和にかけて、今度は「職場」が外されるようになって行きます。かつて親兄弟のような強い絆で結ばれていた職場の上司・仲間はいつのまにか単なる「職場=仕事をする空間を同じくする人々」に変化し、誰と親しくするか、どの上司の傘下に入るかなどが人生の課題にならなくなったからです。多くの若者が入社のその日から転職の機会をうかがうような時代になると、結婚式に上司や同僚を呼んで絆が深まることはむしろ足枷になるように感じられ始めたのかもしれません。
こうして結婚式の参列者が「親戚」と「友人」だけになると、式も披露宴もずいぶんいびつな、居心地の悪いものとなりました。新郎新婦は「親戚」に知識もあまりなければ興味もありません。親たちも「友人」をあまり知らない。お酌をされてもお酌をしても、何かすっきりしない人たちがいる、それが現在です。
【結婚式に呼ぶ人もいなくなって、収入が見込めなくなる】
私が結婚したとき、「親戚」として参列してもらう伯父伯母は、私の方に13名、妻の方に14名、合わせて27名もいました。ところが私の娘が結婚したとき、新郎新婦の伯父伯母は総計で9名しかいませんでした。息子の時は新婦の父親がふたり兄弟、母親はひとりっ子でしたから全部合わせてもわずか6名でした。
娘も息子もけっこうな数の友人に来てもらいましたが、減らそうとすれば数名にまで削ることもできたかもしれません。世の中には呼べる友だちが2~3人しかいないという人だって少なくないはずです。
したがってごく親しい人だけの結婚式にしようとしたら、新郎新婦の両親を含めて参列者が十数人という結婚式もいくらでもありえます。ただ、この程度の人数だと結婚式の費用は大幅に重くなってしまいます。
というのはたった数人の式でも100人を上回る式でも、ウェディングドレスのレンタル料や会場費はさほど変わりないからです。呼ぶ人数が多ければ多いほど赤字は減るのです。それなのに呼べる人がどんどん少なくなっている――結婚式がしにくくなる理由はこの辺りにもあります。
(この稿、続く)