「愚かな理性主義者たち」④〜諸外国の教師は偉いのか

 私の弟は定年間近の地方公務員ですが、10年ほど以前、こんなことを言ったことがあります。
「オレ、今の30歳前後の連中に出世競争で上に立たれても一向にかまわない。アイツらメチャクチャ優秀だ」
 よくわかる話です。学校社会も同様で、平成不況の中で20倍30倍といった教員採用試験を勝ち抜いてきた教師たちは本当にすごい。
――そう言うと必ず、「教師という職業は頭がいいから勤まるというものではない」といった話が出てきますが、20倍30倍を勝ち抜く人の大部分は計画性も持続性もあり、まじめで忍耐強く、素直で前向きな人たちです。勉強のできる人は人間性に問題があるというのは願望の混じった誤解でしかありません。

 平成不況は学校に空前の人材拡充をもたらしました。その平成採用が6割以上を占めるようになった今の日本の学校が、昔に比べて劣るはずがありません。いうまでもなくさらに優秀な人材の確保できているところ(例えば医学界とか官僚とか超優良な大企業とか)もありますが、現在の学校を取り巻く環境や教員待遇を考えれば、これ以上を望むべくはないでしょう。現状を変えずに「今の教師は」と嘆いても始まらないのです。昔の教師に比べれば現在の教師の方がはるかに優秀で努力も惜しみません。

 では日本ではなく、海外だったらどうでしょう。「今の日本の教師のレベルで教えてもなあ・・・」という人が頭に置いているのは、どこかの国や地域の教師かもしれません。いったどこの国・地域の教師が日本の教師を凌駕していると言うのでしょうか。

 国際的な教育の比較ということで、とりあえず参照できるはPISAOECD生徒の学習到達度調査)です。2012年の調査ではすべての領域で上海・シンガポール・香港が日本の上にいました。また、いくつかの領域では韓国・台湾・マカオが日本を圧倒しています。
 日本の「全国学力学習状況調査(全国学テ)」では成績上位の県は生徒や家庭の質、県民気質や風土というものには関係なく、教育の質の良さに原因が求められます。その例に従えば上海やシンガポール・香港・マカオ・韓国の教育は質が高く先生もまたレベルが高いということになります。
 ところが2003年のPISAフィンランドが世界一になったときは数多くの教育視察団がフィンランドに出かけたのに、2012年の結果を踏まえて上海やシンガポールに行ったという話はつとに聞きません。それほど優秀な教育をしている国・地域なのだから道徳教育もすごいに違いないといった機運もさっぱり盛り上がりません。文科省の調査によれば道徳を教科化して教科書も作っているのは中国と韓国だけだというのに、同じく教科化と教科書策定を目指している文科省中韓を見習おうとする気配はまるでないのです。

 これは実はアジア蔑視とか嫌韓・嫌中という問題ではありません。
 学力についていえばこれらの国・地域の高成績の背景に苛烈な学歴社会があるのではないかと疑っているからです。PISAの成績は過酷な受験競争を発生すれば上がるというのは決して認めたくないところです。それは昭和30年代〜40年代に経てきた道で、二度と繰り返してはならないのです。日本は児童生徒に負担をかけないやり方で、つまり教師の教育力だけで学力世界一を目指さなくてはなりません。だから参考にできないのです。
 道徳教育についてはアジア諸国に限らず、手本とすべき国がとりあえず見つかりません。国全体が一つの方向に向かっている統一性でいえば北朝鮮ですが、手本にしようという人はいないでしょう。平和といえばブータンあたりが候補ですが、基礎的条件が違いすぎて真似をするのは難しそうです。

 結局、「今の日本の教師のレベルで教えてもなあ・・・」には何の根拠もないのです。日本の教育も教師の質も実は世界一なのです。そのことは日本以外のほとんどの国や組織の認めているところです(例えば「日本の教師は本当にダメなのか? OECD教育局長は高く評価」2014.07.14)。

 日本の教育や教員を悪く言う人は現状がわかっていないのです。
 もちろん理想の国の理想の教育、理想の教師に比べると日本の教育などまったくなっていないし教師のレベルも低すぎます。しかしだったらといって現実世界でほぼ最高の教育を悪く言い蔑んでも何も良いことはないはずです。まったく愚かなことです。