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「PISA2012」①〜学歴社会の勝利

 大きなニュースにはなりませんでしたが、PISA(OECD生徒の学習到達度調査)2012年版が発表されました。大きなニュースにならなかったのは日本の成績が良かったからです。

 PISAは15歳(高校1年生相当)を対象に3年ごとに行う調査です。日本は前回の09年調査と比べると、数学的リテラシー(10位→7位)、読解力(15位→4位)、科学的リテラシー(6位→4位)といずれも上昇傾向を示しました。学校は大いに誉められてよさそうなものですが、こういう時の記事は大きくなりません。

 ただし産経新聞などは大はしゃぎで、
 文部科学省が脱ゆとりにかじを切った結果といえる。
 上海や韓国などは塾や予備校で学ぶ割合が日本以上に高い。日本も塾頼みの学力では寂しい。公教育で十分な学力を養えるよう、教師の教える力をさらに高めてもらいたい。

などと書いていますが、しかしどんなものでしょう。

 本当に「脱ゆとりにかじを切った結果」だったとしたら、PISAの成績など本気で語るに値しません。こんなに簡単に回復できるものならムキになる必要はないのです。もともと日本の学力は高いのです。3年おきにPISA型テストの練習をすればそこそこやっていけるはずです(その点では「全国学力学習状況調査(全国学テ)」には意味がありました。PISA型テストには慣れておく必要があります)。

 また、“塾や予備校で学ぶ割合が日本以上に高い”上位国に、教師の教育力向上で立ち向かえるものかどうかは疑問です。なぜなら今回のPISAは、「もしかしたら学力世界一は超学歴社会でなければ達成できないかもしれない」という仮説を提示するからです。
 詳しく見てみましょう。

 PISA2012の3分野の成績上位20カ国は次の通りです。
(数学的リテラシー
上海、シンガポール、香港、台湾、韓国、マカオ、日本、リヒテンシュタイン、スイス、オランダ。
(読解力)
上海、香港、シンガポール、日本、韓国、フィンランドアイルランド、台湾、カナダ、ポーランド
(科学的リテラシ―)
上海、香港、シンガポール、日本、フィンランドエストニア、韓国、ベトナムポーランド、カナダ。

 最初にお話しした通り、日本は4位、4位、7位です。しかし中身はそう単純ではありません。
 典型として数学的リテラシーの成績をグラフにすると次のようになります。

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  見てわかるとおり独走状態の上海の背後でシンガポール・香港・台湾・韓国が第一集団を形成し、日本は第二集団の二番手です。上海との差は77点もあります。同じ順位差でもオランダからドイツまでの差(9点)とはまったく意味が異なるのです。

 77点の差を、教師の教育力向上だけで詰められるものでしょうか。そもそも上海やシンガポールを相手に、成績で勝負しようということ自体が間違っているのではないか、そんなことを考えさせる数字です。

(この稿、続く)