「ストレス・トマト」

 トマトやミニトマトというのは、苗を買ってきて植えてそのままにしておくと、四方八方に枝を伸ばして小さな藪のようになってしまうものです。そのくせ実は小さく数も少ないのが常です。ですから枝が広がらないように脇芽(葉の付け根から出て来る新しい枝の芽)が出るたびに掻きとって、主枝だけを伸ばしていくというのが通常のやり方です。

 ただしそれだとひたすら上へ上へと延びてしまい、支柱の丈を越えると仕方がないので反対側に落とし、それでも足りないとまた持ち上げるといったふうで途中からかなり面倒くさいことになります。

 10年以上前、ある農業雑誌を見ていたら、そうではなく、ある程度上に伸ばしたところで花の下に出て来る一本の脇芽を大切にし、主枝の方は花二房を残して先端を止める(切ってしまう)という方法を知りました。

 伸ばした脇芽も、花が二つ付いたところで先端を止め、花の下から横に伸びた枝(脇芽)を伸ばします。同じことを繰り返すと全体はSの字状にくねくねと進んで行く形になり、枝の主軸は2mあまりになってもつづら折れになった分、支柱の高さを越えることはないのです。これを私は「鼻(花)の下を伸ばす法」と呼んであちこちで吹聴してきました(本ブログ、2008年7月24日「ハナの下を伸ばす」参照)

 ところが今年、テレビを見ていて新しい方法に出会いました。それは言わば「地を這うトマト栽培法」ともいうべきもので、要するに脇芽を掻きとるばかりだと上へ上へと延びる主枝を、ひたすら横へ横へと流していく方法なのです。むろんトマトは上へ伸びたがりますが、それを無理やり横に縛り付けるのです(写真)。

 テレビで紹介されたのは枝が伸びすぎて困るからというのではなく、トマトにストレスを与えて美味しい実をたくさんつけさせる方法としてです。そしてそれはとても理にかなったことなのです。

 そもそも植物はなぜ美味しい実をつけようとするのか――それは結局、美味しい実をつけることでさまざまな動物に食べてもらい、種子を胃袋や腸に溜め込んで遠くまで運んでもらってそこで肥料(糞)とともに地に蒔いてもらいたいという欲望があるからです。この欲望は個体によって強さが異なり、より生存の危機にある個体ほど意識が高く、できるだけ多くの種子を、より条件の良い土地に運んでもらおうとします。つまり必死の思いで美味しい実(種入)をつくろうとするのです。逆に言えば、植物に生存の危機を自覚させることが美味しい実をたくさんつけさせるコツなのです。

 トマトについて言えば、ひとつは極力、水を与えないことです。もともとがメキシコ高原の岩場で地に這いつくばって水を探していたような植物ですから、少しぐらいのことでは枯れたりしません。葉が黄色くなり、茎から白い産毛のような毛が生えだして空気中からも水分を吸収しようとするまで枯渇させると、トマトは必死になって美味しい実の生産を始めます。家庭菜園でトマトの上にビニールのドーム型テントを張っているのは、保温のためではなく雨除けなのです。意図的な灌水以外の水を避けるためです。

 美味しい実をたくさんつけさせるもうひとつの方法は、トマトに素直な生育をさせないことです。上へ上へ伸びたがる枝を横へ横へと伸ばしていくのは、そのやり方のひとつです。

 さて今回の新しい方法、それだけ美味しい実をつけてくれるのか――来週あたりから本格的な収穫になります。

 適切なストレスを与えないと美味しく育たない――人間だってその通りです。