カイト・カフェ

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「フキノトウの思い出」~春になると、小さなころの息子を思い出す

 家の畑にフキノトウが顔を出した。
 今年は例年より早く気づき、花の咲く前に収穫できた。
 フキノトウには思い出がある。
 人生で初めて、自分の子に教えてもらったことだからだ。
という話。(写真:SuperT)

フキノトウ(蕗の薹)】

 裏の畑の柿の木の根元にフキノトウが芽を出しました。
 
 自分が知らないからひとも知らないだろうと考えるのは愚か者のすることですが、もしかしたら昔の私と同じように「フキノトウ」が何たるかを知らない人が、都会の、例えば東京の港区とか中央区あたりに住んでおられる方の中には、おられるかもしれません(傲慢に聞こえ、マンスプレイニングにならないようにかなり気を遣っています)。

 そこでもしかしたらいるかもしれないそんな「よく知らない人」のために紹介すると、「フキノトウ」は植物のフキの花芽で、2月~3月ごろ地表に顔を出します。上の写真は芽が出たばかりのところですが、しばらく放置すると黄色の花粉をもった雄花と、白い雌花のどちらかの姿を見せるようになります。大きな花ではなく小さな花弁が密集した感じの花です。やがて雄花は枯れますが、雌花の方はうまく受粉するとすくすくと伸び、タンポポに似た綿毛をつけてタネ飛ばすようになるのだそうです。
 しかし私は見たことがありません。そうなる前に全部食べてしまいますから。

 フキの地下茎はそのあと花茎とは別なところから葉柄を伸ばし、地表に葉を出します。葉柄はやがて高さ30~50 cmほどになり、先にハスに似た大きな丸い葉をつけます。
 ハスと違うのは葉の一部に切れ込みが入って全体としてハートに近い形になる点ですが、もちろんハスと違って池に生えるわけではなく、またハスの根がレンコンで食用なのに対し、フキの根は薬用にするほどの毒性があるので要注意です。

【食べ方】

 成長したフキは茎の部分を調理して「伽羅蕗キャラブキ:醤油と砂糖やみりんで濃く味付した佃煮)」や煮物にして食べます。しかしとにかく灰汁が強く、煮たあとは筋を一本一本抜かなくてはいけないという面倒くささで、だから我が家では収穫せずに夏を過ごさせ、秋にはそのまま枯らしてしまいます。基本的には春にフキノトウを採るのが目的で残してある作物です。
 「伽羅蕗」などは昔の代表的な保存食ですから、今の時代、がんばって作るほどのものではないのかもしれません(好きな人は別ですが)。
 
 花芽であるフキノトウは煮物、和え物、味噌汁、油炒め、ふきのとう味噌など様々に調理できるみたいですが、我が家は一点、“天ぷら”のみです。独特の香ばしさと、何とも言えない心地よい苦みが一番の魅力です。機会があれば一生に一度は食べておきたい料理といえます。
 ただ、今回も改めて調べたのですが、あまり強調されない、しかし重要な特徴として、雄花の花粉が重大なアレルギー反応を引き起こすことがあるらしいのです。実は昨年、妻が天ぷらにして同僚に振舞ったフキノトウで、お一方がアナフィラキシー・ショックを起こして救急搬送されてしまいました。たしかに収穫が遅れて花の咲いてしまった雄花も一緒に揚げて持って行ったとおもいます。フキノトウでアナフィラなど、考えてもみないことでした。
 山野草の類はやはりいちいち調べて対応しなくてはなりません。我が家で四半世紀も食べてきたものなので、不審にも思わず、何も考えずにひとに上げてしまったのです。

フキノトウの思い出】

 フキノトウは私にとってはとても思い出深い食材です。
 というのは我が家にフキが自生していて、フキノトウが出るということを最初に教えてくれたのが、当時、小学校の1~2年生だった息子のアキュラだったからです。

 そのころの私といったら(今でもそうですが)、自然とか動植物とか作物とかいったものに全く疎く、今の家に引っ越してきた当初も春先に伸びてきた「土筆(つくし)んぼ」を大切に、大切に見守っていたりしたのですが、あれは成長するとスギナと呼ばれる厄介な雑草になるもので、引っ張ればすぐに切れるのに根はやたら強くて切れない、成長が早くてどこにでも顔を出すという、とんでもない代物だったです。けっして可愛がる相手ではなかったのに、ただ微笑んで眺めていました。
 それほどの無知ですから、自然のことはのちのちアキュラからたくさん教えられることになりますが、その第一号が「フキノトウ」で、だから毎年春になると収獲に出て、小さかった頃のアキュラを思い出すのです。