カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「食べられているトマトに手足をつければ金賞がもらえる」~芸術の秋に②

 民間の絵画展に応募して私の子が素晴らしい賞(というか“素晴らしい副賞=絵の具セット・クレヨンセット+1万円と5千円の図書券)をもらったというお話をしました。応募点数が少なく教師の目も通っていませんからここで勝ち抜くのはあまり難しくない、そんなお話もしました。
 問題はその先です。

 県の最優秀賞ということで娘の「トウモロコシを食べる私」は全国大会に自動的に出品となりました。しばらくしてから「銀賞」に輝いたという通知が来ましたが表彰式とか賞状授与とかいった話はなく、あったのは新宿で開かれる作品展示の案内だけした。やはり全国のレベルは高く、そう簡単に重要な賞という訳には行かないのでしょう。そもそもそれほど意欲をもって応募したわけではないので、さほどガッカリもしませんでした。

 それにしても花の新宿での展示です。行かないとなれば娘もガッカリしますので、他の観光もかねて、家族で一日東京に出かけたのです。もちろん最初に行くのは展示会場です。

 娘の作品は、壁にびったりと張られた作品の、下から二段目にすぐ見つかりました。「銀賞」の小さな紙が貼られています。他の作品を見回すと金賞も銀賞もかなりの数が出ていて、優秀賞だとか最優秀賞、会長賞とかいった特別賞とは格段に扱いが違っているみたいでした。
“銀賞”が思っていたよりもさらに軽いもののようで、初めて少し残念な気にもなりました。ところがそれから一つひとつの作品をゆっくり鑑賞し始めて、そこで私は本当にカッカリというか、びっくりというか、言いようのない気持ちに捕らわれたのです。

 それは最初、娘の絵の斜め上の方にあった金賞の作品、「トマト」によってもたらされました。
「トマト」は娘の絵とよく似た作品で、食べているものがトウモロコシからトマトに変わっただけのようなのですが、実は決定的な違いがあります。それはなんと、描かれたトマトに手足が生えていて、目鼻があり、女の子に食べられるのを嫌がって大暴れしているのです。さすがに“やだよ〜”と吹き出しになってはいませんが、見事なくらいの暴れぶりです。
 教師の私の感覚からすると「絶対にやってはならないこと」です。

 そのまま会場をずっと回ってみたると、絵の一部に新聞の切れ端を貼り付けたもの、雪山の表現に直接ワタを張ってあるもの、切り抜いたアイドルの写真の張られているもの、あれもこれも私にとって「絶対にやってはならないこと」、それをやっている絵がたくさんあって、しかもそうしたものこそ評価が高いのです。そうなるともう、娘がどうこういう話は消し飛んでしまいました。それが全国なのです。

 のちにこの話を美術の先生にしたらこんなことを教えてくれました。
「要するに個性を探している。どれだけ新しいアイデアがあるか、というのが全国の趨勢。ウチ(本県)の絵を持っていくと一応は感心してくれるけど、そのあと『ソチラの絵はいつも苦行みたいなものですな』と笑われる」

 なるほどと思いながら、しかしそれでいいのかとも思ったりします。
 要するに私は“古い”のでしょうね。