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「打つ手はほとんどないが、それでも教員による性暴力は相対的に減る」~児童盗撮事件の中心人物が起訴された②

 盗撮にかかわる法律は、教員も子どもも学ぶべきだ。
 盗撮画像は持っているだけで犯罪になる。
 さらに今後、警戒すべきは教師や同級生だけではないと、
 子どもたちにも教えておかなくてはならない、
という話。
 (写真:フォトAC)

【盗撮罪の話】

 捨て鉢な言い方をすると今や「教師も生徒も盗撮をする時代」ですから、盗撮に関する法律は万民が知っておく必要があるのかもしれません。

 そこで調べてみると――、
 盗撮に関する法律としては2023年7月13日に施行された「性的姿態撮影等処罰法」というものがありました。スマートフォンの普及により盗撮事件が増加したことと、条例では処罰できないケースが出てきたことなどが背景としてあげられます。
 隠し撮りを罰する法律と思われがちですが、正確には「同意のない性的姿態の撮影と画像の提供・保管などを処罰する法律」で、撮影や保管などの行為に、それぞれ細かな定義があります。ここでは簡単に説明しますが、
撮影罪:正当な理由なく、人の性的姿態をひそかに撮影する行為。
提供罪:撮影罪で記録された画像や映像を、第三者に提供する行為。
保管罪:提供目的で、撮影された画像や映像を保管する行為。
記録罪:撮影罪に該当する行為で撮影されたと知りながら、画像や映像を記録する行為。
 法定刑は3年以下の懲役または300万円以下の罰金、
だそうです。

「正当な理由がなく」や「本人の同意がない」というのが重要な点ですが、対象者が16歳未満である場合は、年齢差や同意の有無に関わらず、処罰の対象となる可能性があるとされています。「正当な理由」というのは『救急搬送されてきた意識不明の患者の裸の写真を、医学的な見地から検討したり証拠保全のために撮影しなくてはならない』といった、かなり特殊な場合です。また、親が子どもの成長記録として裸で遊ぶ姿を撮影する場合も、状況によっては「正当な理由」と認められない場合もあるといいますから注意が必要でしょう。

 撮影に関して気を遣えというだけの話ではありません。提供罪や保管罪のことを考えると、友人から送られてきた盗撮画像をスマホの中に残したり、気軽に別の友人に回したりするだけでも罪に問われますから、中高生にもきちんと指導しておく必要があります。大人と違って職や収入を失うということはありませんが、前科・前歴・デジタルタトゥーは一生ついて回ります。

【対応策は出尽くしている】

 今回の事件を機に、文部科学省は、全国の教育委員会の担当者と緊急のオンライン会議を開き、盗撮などの被害を防ぐための対策の徹底を求めました(7月10日NHK)。内容としては、
「カメラを設置できないよう教室やトイレ、更衣室などを定期的に点検することや、児童生徒を撮影する場合は私的な端末は使わないことなどを徹底するよう求めました」
ということですがSNSなどでは一部から早くも、「通知表作成で死ぬほど忙しいこの時期に、また研修会かよ」といったボヤキの声が上がっています。
 懲戒事例集の読み合わせ、自己診断チェックシートの作成、誓約書の書き直し等々々。もう40年も前からの焼き直しですから効果があるような気がしません。
 ちなみに私は現役のころ、《男の先生たちは仲間の不始末だから我慢しなくてはならないにしても、女の先生たちはよく怒らないものだ》と感心したことがあります。しかし内心は「なんで私たちまで巻き添えにならなくてはいけないのよ」と本気で怒っている人がいたかもしれません。

 政府も2023年に「教員による児童生徒性暴力防止法」をつくり、子どもと接する仕事に就く人に性犯罪歴がないか確認する仕組み(日本版DBS:来年12月から開始)も整えつつあります。しかしNHKによると2023年に児童生徒に対する性犯罪・性暴力で処分された教員157人(過去最高)のうち、155人が処分歴なし、つまり初犯なのです*1。これでは日本版DBSもほとんど役に立ちません。

 厳罰化を求める声も日増しに大きくなりますが、懲戒免職で全国ニュースになり、職と収入と教員免許、社会的立場を失う以上の厳罰となると、懲役刑くらいしかなくなります。「教員に限って盗撮で懲役」といった法律をつくるのはやはり難しいでしょう。
 スクールポリスの常駐・防犯カメラの設置など、金のかかる対策はもっての外です。

 私が考えるのは、いま行っている対策を丁寧に続けること、そして教師たちをできるだけ早く帰宅させ、豊かな家庭生活を送ってもらうことで「犯罪によって失うものの価値を高めていくこと」、そういったアイデアです。
 父親になれば子どもを性の対象とすることに歯止めがかかるかもしれません。家庭における性生活の豊かさも、性衝動をコントロールするのに効果があるはずです。その程度ですが、大切なことでしょう。

【教師による対児童生徒性暴力の自然減】

 ただし、そうした対策を打たなくても、教員による児童生徒に対する性犯罪・性暴力は相対的に減っていくと思われます。なぜなら子どもたちの活動の場がどんどん広がって、関わる大人が増えていくからです。
 現在“いじめ”や“虐待”を含めて、子どもが被害者となる場所は家庭と学校にほぼ限られています。しかしそれは家庭と学校が子どもたちを独占しているからで、部活の地域移行などによって放課後の子どもたちが地域で活動するようになると、さまざまな大人が関係をもつようになっていきます。
 すでに学習塾における性暴力もいくつかニュースになっています*2。学校の教師の出る幕は、こうした意味でも減っていくのです。
(この稿、終了)