カイト・カフェ

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「良く知った若い教師が盗撮で逮捕された」~教員不祥事の憂鬱①

 私のよく知る若い教諭が盗撮で逮捕されました。
 研究熱心な教師で会議や研修会にもよく足を運んでいました。教育雑誌にもしばしば名前の出るような人ですから、googleで検索にかけるとその研究成果ばかりがヒットします。ただし数日中には「盗撮」一色になるでしょう。
 真面目で誠実な人柄です。いつも子どもと一緒にいることを喜び、休み時間も昼休みも職員室に来ることは稀でした。子どもの遊ぶ時間は一緒になってドッジボールをしたりサッカーに興じたり、大縄跳びの縄を飽きもせずに回していたりしました。
 身長1m90cm近く、体重も100kgに届かんという巨漢ですから小学生の大繩を回すのはたいへんです。いつも身をかがめて頑張っていました。
 保護者へも早め早めの丁寧な対応ができます。朗らかな好青年で年長者に対する態度もきちんとしていました。

 人は見かけに依らないと言いますし心の中は見えませんから、どんな性癖があり何に興味を持っていたかは、ほんとうのところは分かりません。性教育や性指導について話し合うことはあっても教員同士の会話に性的な軽口が出たりすることはありませんから、彼が特殊な趣味を持っていたとしてもその匂いを嗅ぎ取ることはできなかったはずです。
 ただし彼の性行は分からなかったとしても、別に分かることはあります。それは、彼はバカではないということです。

 平成不況の真っただ中で教員試験を受かってきた人たちは皆とんでもなく頭がよく、それ以前の採用(私たち)とは隔世の感があります。勉強のできることと賢さとは必ずしも一致しないと言いますが、実はそうでもありません。賢くない人の方がむしろ稀なくらいです。
 彼はそうした平成採用の一人で、しかも一発合格です。どれくらい優秀かがうかがいしれるというものです。
 その頭の良い、賢い人が、なぜ盗撮などという愚かなことをしでかしたか。
 仮に特殊な性的嗜好を持っていたにしても、なぜ知性がそれを留めなかったのか。理性は何をしていたのか。

 あんな熊みたいな大男が腰をかがめて女子高生の後ろに着けば、それだけでも疑われかねない。疑うどころか誰の目にも怪しく見えたはずです。しかも防犯カメラが十字砲火のように構えるショッピングモールのエントランスの、エスカレータの下だというから呆れるばかりです。やるにしても場所を考えなくてはいけない。犯罪者のほとんどはそうしています。なのになぜ彼はそれが分からなかったのか。
 繰り返しますが彼はバカではありません。学校で繰り返し研修を受けていますから捕まれば何が起こるかは容易に想像ができたはずです。

 警察に連れていかれてそこで尋問を受ける、それは大したことではありません。何しろ相手は顔見知りですらない警察官ですから粛々と捜査に協力すればいい。ほんとうに苦しいのはその先で、まず妻子と会わなければならない、子どもはまだ赤ん坊で何も分かりませんが、分からないだけにさらに不憫だ、それから現在も社会人として働く両親に会わなければならない、就職したばかりの弟妹とも会わなければならない、祖父母ともそのまま絶縁と言うわけにはいかない――。
 校長先生と会わなければならない、その校長の背後で戸惑う同僚の姿も透けて見える、面倒を見てくれた先輩の先生が浮かぶ、さまざまなことをアドバイスしてきた後輩教諭の顔も浮かぶ、名前の知らない何千という県内の教職員が自分のためにまた長い長い研修を受けなければなくなる。

 そして何よりも、哀しい表情で下を向くクラスの子どもたちの様子が浮かぶ。あの子たちはこの現実をどう受け取るのだろう――。
 嫌われ疎まれる担任だったらまだしも、自分はあの子たちとかなりうまくやってきた、尊敬もされていた、その自分が破廉恥事件の容疑者となってしまい、あの子たちは何を感じるのだろう、このことから何を学び、どう生きていくのか。
 保護者たちは何をおもうのだろう、子どもたちに何と説明するのだろう――。

 そうしたことが全部わかっていたはずなのに彼はなぜあのような愚かなことをしたのか。

(この稿、続く)