きちんとした給料をもらっていながらつまらないものを万引きする教員というのもさっぱり理解できませんが、痴漢・盗撮といった破廉恥行為も理解できません。しかも往々にしてベテランや有能と言われる教員によってそれは行われます。なぜ彼らは素晴らしいキャリアや評価や職を賭け、そんなつまらない犯罪に走っていくのか―昨日はそこまで話しました。
万引きと違って女性教員はしない犯罪ですから、原因の一つは「男だから」ということになります。冗談みたいですが、元医療少年院長の小栗正幸氏(「発達障害児の思春期と二次障害予防のシナリオ」の著者)も、非行の最大のリスク・ファクターは「男の子に生まれることだ」と言っていますから、男性であるというだけで崖への大きな一歩を踏み出していると言えます。
第2の要因として日本が非常に刺激的な社会になっている現状が挙げられます。性的なものは今やインターネットを通じて家庭まで入り込んできます。盗撮のための技術供与さえしてくれます。
それにも関わらず、教員という職業が極めて清廉なものである、これが3番目の要因です。
私は民間の仕事についていた経験がありますが、一般企業というのはもっと自由です。私がいたのはほとんど零細といっていい会社でしたからさらにいい加減で、とにかくよく羽目を外しました。そうした世界から教職に移ると、この世界の真面目さには本当に呆れます。二次会で女性のいる所へ繰り出すといったこともなくそういう話題が出ることもありません。キャバクラという言葉は知っていますが、それがどんな場所かも知りません。話題もいつも子どもの話です。私の友人は週に2〜3回は飲んで帰るようですが、教員が外で飲むのは年に数回というところでしょう。酒で憂さを晴らすということもないのです。
非常に刺激的な世界で異常に禁欲的な生活を送っている―これで更に2歩、崖に近づきます。
痴漢行為や盗撮事件を起こす教員の多くに共通の状況があります。それは家庭に問題を抱えているということです。第4の要因はそれです。
最近の若い先生は昔に比べるとずっと家庭を大切にするようになりました。家庭をおろそかにした結果さまざまな問題が生まれ、それが教員としての仕事の足を引っ張るということが明らかになってきたからです。自分の家に不登校を抱えながら不登校の指導をするのは困難です。息子のためにしょっちゅう警察に行き来しているようでは生徒指導にも迫力が出ません。ですから現代の教員は「家庭を大切にするのも仕事のうち」という感じですが、私たちの世代は違います。教育のためなら平気で家庭を疎かにするよう躾けられてきました。そして今、そのツケを払うようになっているのです。50歳代前後は家庭に一番難しい親子関係を持つ時期です。子どもでうまくいかないと夫婦関係も冷えます。浮気するような甲斐性でもあればいいのですが、甲斐性以前にそのための時間がありません。
しかし崖から落ちるには、もう一つ大きく踏み出す必要があります。もしかしたら警察に捕まるかもしれない、家庭が本格的に崩壊し人生が破滅するかもしれない、自分が築いてきたものをすべて失う・・・そういった一切が現実感を失い、欲望に一方的に従うようになるためには、第5の、決定的な要因が必要です。そしてここで初めてストレスが出てきます。
私はストレス反応には詳しくないので断定的なことは言えないのですが、優秀なベテランが最後の一線を超えるためには、そこに病的な何かがないといけないと思っています。さまざまな個人的な事情はあるものの、崖への最後の一歩を踏み出す時、彼は何かの病気を抱えている―そう考えないと、教員生活を20年以上も無事勤めてきた人材の犯罪を説明することができないのです。それについて、だれかお話をしていただけませんでしょうか。