カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「疑似恋愛に足を取られる教師」~教師の犯罪①

 先週からずっと、教員のわいせつ犯罪について考えています。

 さて、新聞などを見ていると教員のわいせつ犯罪が非常に多いような気がしますが、実はそうではありません。職業別犯罪統計というのがあって交通違反を除く刑法犯のうち、教職にあるものは毎年だいたい500人〜600人というところです。これは全体の0.17%前後で、幼小中高の教員だけでも100万人近くいることを考えると非常に少ない数です。

 犯種別にみるともっと多いのは暴行・傷害ですが、これは体罰のためでしょう。次に多いのが「非侵入盗」つまり万引きですが、万引きは絶対数がとびぬけて多いので教員によるものは全体の0.09%にしかなりません。わいせつ、特に強制わいせつは逆に絶対数が少ないため、年度ごとのばらつきが大きくて統計的な傾向を探るのは困難です。しかし他の犯罪に比べると教員が高い割合にあるのは事実のようです。

 犯罪という意味ではどれも等し並みに許せないものですが、教員の行う「暴行・傷害」「非侵入盗」「強制わいせつ」と並べるとその意味の違いは明らかです。「暴行・傷害」(体罰)には社会の消極的支持があります。「程度によっては理解できる」という人が特に学校外に存在するのです。それが「非侵入盗」となると理解できません。絶対許せないというほどではありませんが、どうしてそんなことをしたのか理解できないのです。そして「強制わいせつ」となると誰も許しません。特に被害者が教え子である場合が多いため、何よりも強く非難されます。当然でしょう。しかしそれにも関わらず、なぜわいせつ罪は繰り返されるのか。

 ひとつには、以前お話しした「転移」の問題があると思います。

 カウンセリングや心理療法の現場ではときどき「転移」という現象が起きます。これはクライアントがカウンセラー・治療者に対して、過去に出会った人物に対して抱いたものと同様の感情や態度を無意識に示すことです。陽性と陰性に分かれ、陽性転移の場合は信頼・感謝・尊敬・情愛、陰性転移の場合は敵意・不信・恨み・攻撃性などを示します。
 クライアントの転移感情は複雑で、甘えと恨みが裏表一体となっていたり、恋愛に似た感情を示したかと思うと強い攻撃性を示したりと激しくぶれたりします。問題はその激しさに巻き込まれ、カウンセラーや治療者の側にも感情の揺れが起こることです。これを逆転移と言います。

 逆転移が陰性で起こるときはむしろ問題ありませんが、陽性で起こる場合は疑似恋愛となります。以前紹介した60歳代の元教員と10代の元教え子の事件はおそらくそういうものです。中学校の担任=生徒の関係でいる間は疑似恋愛の中にいたのが、離れた後で“教え子”の転移が解けたのです。生徒指導の現場は非常にカウンセリング的ですから、そうした罠にはまることは十分に考えられます。

 若くて有能な教員が青少年保護条例違反で逮捕される事件の背景にはそうしたものがあった、私はそう信じています。私自身が若いころ、生徒にすがりつかれて困ったことがあるからです。
 もちろん私はそこまで優秀でも生徒の中に入り込むタイプでもありませんでしたから危険な状況にはなりませんでしたが、私の周辺にははるかに高いレベルで生徒指導にのめりこんでいる人はたくさんいます。その中にはかなり危険な場所にいた人もあったのかもしれません。それが仮説のひとつです。

 ただ、しかしそれはわいせつ事件の特殊な一部しか説明しません。理解できないのは教員によって行われる痴漢行為や盗撮です。合法的な行為がいつの間にか犯罪の領域に入っていったというものではなく、最初から明らかな犯罪です。しかも往々にしてベテランや有能と言われる教員によって行われます。それがわからない。

 なぜ彼らは素晴らしいキャリアや評価や職を賭けて、そんなつまらない犯罪に走っていくのか。

(この稿、続く)