カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「人生、ひとの役に立ってこそナンボ。ネギも苦労してひとのために甘みを増す」~暑すぎて畑仕事もできないので考えた

 退職後ののんびりとした悠々自適の日々、
 しかしさして面白いこともない。
 人生、ひとの役に立ってこそナンボ。
 ネギも白い部分が伸びて甘くなってこそ価値があるのだ。
という話。(写真:フォトAC)

【人生、人の役に立ってこそナンボ】

 まだ梅雨も明けていないというのに寒暖計はうなぎのぼり。連日猛暑日になるとともに、熱中症情報は厳重警戒警報を鳴らしっぱなしです。これほどの酷暑にもかかわらず、屋外または屋内でも冷房の利かない場所でお仕事をされている方々、本当にご苦労様です。私は無職の家居老人ですから暑い日中は庭仕事もせず、冷房のよく聞いた部屋で撮り溜めたVTRを見たりネット記事をあさったり、のんびりとした生活を送っています。しかしあんがい羨ましいほどのものでもないのです。

 人生は人の役に立ってこそナンボなのです。24時間ほぼすべて自分のもの、やること成すことぜんぶ自分だけのためという生活は、驚くほど退屈です。すべて自分のためだということは、《自分さえ我慢できるならやらなくてもいい》ということじゃないですか。やらなくてもいい仕事をやっていて充実感などあるはずがありません。

 しかしそんな愚痴を言えば、
「だったら電車に乗って秋田でも熊本でもいいから行けばいい、そこには必ず役に立つ仕事がある」
ということになるのですが、困ったことに仕事はあっても、体力的にまったく自信がないのです。畑仕事をしているので分かるのですが、肉体労働はいくら頑張っても3時間が限度。重労働だと1時間ももたないかもしれません。それが限度です。
 せっかく現場に行っても足手まといになるようなら、《来ない方がよかった》ということにもなりかねません。それで二の足を踏みます。
 
 妻は定年退職を終え、再任用期間も終えて今年から講師という立場で、慣れた学校現場で働いています。それが羨ましくて自分もできるといいのですが、私が教職の最前線にいたのはもう20年近くも前のこと。災害ボランティアに出るのが不安なのと同じくらい、やってもできる気がしません。
 それが社会的には無為徒食の、家居老人を続けていなくてはならない理由です。

【ネギを抜いてまた植え直す】

 無為とは言っても、幸い私には介護の必要がある母がいて、協力しなくてはならない妻もいます。家の裏には収入を生み出すのは狭すぎ、家庭菜園というには広すぎる畑もあります。
 
 ここ数日のような酷暑では日中の作業はとてもではありませんができないので、たいていの家庭菜園ティストの家では早朝仕事となります。私も昨日の朝は早目に自宅に戻り(というのは、夜は母の家にいるので)朝の5時ごろからネギの植え替え作業をしました。
 植え替えと言われてもなんのためにするのか、ネギを育てたことのない人は分からないですよね。
 通常、ネギは中が空っぽの緑の部分ではなく、下の身のしまった白い部分を中心に食べるのです。ここからが一部の人にとっては目からウロコみたいな話で、私も始めるまでは知らなかったことですが、白いということはその部分全部が太陽に当たっていなかった、つまり地中に埋まっていたということなのです。凄いでしょ?
 
 スーパーなどに行くと青いところの大部分を切り取った白いネギを売っていますが、その長さがおよそが30~40センチ。それだけ深く埋まっていたということです。ではどうやってそれだけの深さを獲得したのでしょう?
 
 ネギはダイコンやニンジンと違って、自ら深く深く潜っていくということをしません。したがって人間が深くしたと考えるのが自然です。
 実はネギの白い部分を長くするため、私たちは繰り返し周辺から土を寄せてネギの下の部分を埋め、ネギはそのたびに土から逃れて上へ上へと伸びていくのです。それを繰り返して土に覆われた部分を長くする、つまりネギの白い部分を長くするというわけです。
 タイトルの写真を見ると、高く作った畝の上にネギが植えられているように見えますが、ネギは最初ミゾの底に植え、成長に従ってミゾを埋め、さらに土を寄せて畝のように高くしていくのです。

【イジメられたネギはうまい】

 ただしこのやり方だと、最初から寄せる土の量を考えて、ミゾとミゾ(のちの畝と畝)の間を相当広く取っておかなくてはなりません。ネギ専業の農家なら別ですが、家庭農園にはまったく不向きです。
 そこでクソ暑い今の時期にいったんすべてのネギを抜き取って、穴を深く掘り直して再び植える《植え替え作業》が必要になってくるのです。これでネギの周辺はいったん平らになり、また土を寄せる余裕が出てきます。
 
 普通のネギ農家はこのようなことはしません。何と言っても広い土地がありますし、夏は他にもやらなくてはならない仕事がたくさんあるからです。さらに(これが一番の理由なのですが)植え替えをするとどうしてもネギが真っ直ぐ立たず、傾いたネギをそのまま成長させると、まっすぐ上に向かいたいネギは身体を大きく捻じ曲げてしまう――つまり大きく反ったネギが育ってしまいます。つまり売り物にならないわけです。弓なりになったネギなんて、お店屋さんで見たことはありませんでしょ?
 
 ただしこれはナイショでお教えしますが、大きく曲がったネギは甘さが強く、とてもおいしいのです。これは作物に共通の特徴で、ストレスを与えられ無理をさせられたものはほぼすべておいしい。
 水を抑えられて枯れる寸前で育てられるトマト、たびたび干される水田の稲、寒暖差の激しいところで育てられるスイカやブドウ――適切に頑張ることを強制された作物はすべてよりよく育つものです。人間も同じですけどね。
 それがネギを植え替えるもうひとつの大きな理由です。