カイト・カフェ

毎朝、苦みのあるコーヒーを・・・

「植物界では、同じ種類に同じことが一斉に起こる」~意外と気づかない農業の当たり前②

 子どもの成長を植物に例える人がいる。
 しかしどうだろう。 
 植物の世界では、同じ種類に同じことが一斉に起こる。
 それは人間には決して起こらないことだ。
 という話。(写真:SuperT)

【子どもの成長を植物に例える】 

 子どもの成長を植物の成長に例えていう人がいます。例えば昔、理想とされた、
「踏まれても、踏まれても、繰り返し立ち上がる、雑草のようにたくましい子」
などがそれです。しかしこの言葉、何となくしっくりきません。最初に「たくましい子」を雑草に例えた人も、この言葉を信奉し続けた人も、きっと農業体験も園芸体験もなかったのでしょう。雑草がどんなものか、ひと夏、身を入れて畑や花壇に立ち向かってみればいのです。ロクなものではありません。
 やたら強い、はびこる、役に立たない――

 河合隼雄という臨床心理学の大御所は、かつて著書の中でこんなふうに書いていました。
『私は子どもを育てる、というときに「植物」をイメージする、太陽の熱と土があれば、植物はゆっくりと成長していく』(「子どもと学校」岩波新書 1992)
 植物は成長していきますが、人間は太陽の熱と土だけでは育ちません。「子どもと学校」は大人による《教えすぎ》を戒める内容なので、それが行き過ぎてこんな言い方になってしまったのですが、やはり植物と人間を一緒にするのは最初から無理があります。
 植物の成長は動物、とくに人間と比べると、呆れるほどに単純なのです。

【一緒に種を蒔いても芽の出る時期が違う、成長の度合いも違う】

 例えば私の畑を見てください。
 タイトルの写真は現在の我が家の畑の一部ですが、一番手前が落花生の予定地。ケースにポットを入れてタネを蒔き、ハトなどに突かれないように上からもケースを被せてあります。
 その向こうで、ネットに葉がかかり始めているのがモロッコインゲン(以下モロッコで表記)。さらにその向こうのマルチのかかった畝がオクラです。もうひとつ先にはタマネギを抜いたばかりのマルチの畝があります。ついでに紹介すると、モロッコの左に植えられているのは、向かって右がオオバ、左がモロヘイヤです。
 
 落花生とモロッコとオクラは、先月の中旬、同じ日に種を蒔いたものです。写真を見るとモロッコが少し大きくなっているだけで、落花生とオクラは同じような成長をしているように見えます。しかし実はモロッコとオクラが種を蒔いて4~5日で芽を出したのに対し、落花生の発芽は大きく遅れ、この一週間ほど前にようやく最初のひとつが葉を広げ始めたのです。
 
 落花生は今月中旬まで待って種を蒔いても十分間に合ったのです。私の気が急いて早めに撒いてしまったのですが、毎年フライング気味で、ある年などは早すぎてポットの中で種が腐ってしまったこともありました。今年も5月の下旬になって気温が下がったため発芽が遅れ、危うく腐らせるところでした。
 
 モロッコもオクラも順調な始まりでしたが、発芽の後、興味深い現象が起こります。それは発芽はしても、それぞれ気に入った温度まで気温が上がらないと、作物は大きく成長しようとしないということです。わずか4日~5日で発芽し、一週間ほど伸びてから、そこで一休みする感じがあるのです。モロッコは落花生の発芽に合わせるようについ一週間前ほどから、成長の速度を上げ始めて写真のようになりました。オクラはまだ待機中です。

【高冷地のオクラ】

 私は種からオクラを育てますが、ひと苗かふた苗しか栽培しない人の中には、種代がもったいないとばかりに苗を買ってきてそれで始める人もいます。その苗が4月の第2週あたりから苗屋さんで売られ始めます。
 私も種を使うようになる前は5月の大型連休の作業を見越して、オクラ苗を買って定植したことがあります。ところが待てど暮らせどさっぱり大きくならない。枯れて死ぬわけでもないし、元気がなくなるわけでもない。ただただ買ってきた4月下旬とほぼ同じ大きさと形で、5月・6月を過ごし、7月になるとやっと、何か「音を立てて」と言いたくなるほどのスピードで成長して実をつけ始めるのです。私の住むところは山の上、つまり高冷地ですので収穫はさらに遅れ、7月中下旬以降のことになります。
 このように山岳地帯でつくられるオクラを、「山の上のオクラ」と言って珍重されることもあります(ウソです)。

【植物界では、同じ種類に同じことが一斉に起こる】

 適温にならなければ成長を始めないという植物の不文律は理解できます。分からないのは7月にならないと実質的な成長をはじめないオクラが、なぜ4月に種を蒔くと芽が出るのかということです。芽なんか出さずに地中でヌクヌクを平和に暮らしていればいいだけじゃないですか。それをうっかり顔を出して、遅霜にでもあたって死ぬようなことがあれば、誰がどう責任を取ってくれるのでしょう? けれどおそらく、それにも納得のいく説明があるはずです。ただ私が知らないだけで――。
 
 さて、そんなふうに書くと「植物もなかなか複雑な動きをするワイ」ということになりそうですが、そうではありません。ひとつのオクラに起こることは、原則的にすべてのオクラに同じように起こるのです。変化の兆しも気温や日照時間に依存していて、スイッチはすべてオクラに同時に入り、単純に発動します。人間だとそうはいきません。

(この稿、続く)